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「斜め45度」の視点

2017年4月11日

第244回東京都認定「子育て支援マンション」の不十分な仕組み

 東京都都市整備局は2016年2月に「子育て支援住宅認定制度」を創設。同年9月に、新築される分譲マンションとして、コスモスイニシアの「イニシア西新井」を初めて認定した。

 【イニシア西新井の概要】

 所在地─東京都足立区島根4丁目

 交通─伊勢崎線「西新井」駅徒歩9分

 総戸数─81戸、他に管理事務室1戸

 構造・規模─鉄筋コンクリート造、地上9階建

 竣工─2018年1月下旬予定

 売主─コスモスイニシア

 管理会社─大和ライフネクスト

 施工─大豊建設

 「イニシア西新井」は子育て支援マンションとして、子育てにやさしい居住空間を目指し、出隅の面取り、ドアや引き戸の指はさみ防止、ベビーカー置き場の確保、段差の解消などを心がけた。また、芝生敷きの屋上「スカイテラス」や、コミュニティを育てる共有空間として「中庭」を用意した。

 エントランス完成予想図(写真は同社のニュースリリースから引用)

 コスモスイニシアは2017年春にメディア向け「モデルルーム見学会」を実施し、ニュースレターも発行した。そこには、「文教と自然、暮らしの利便性を身近なものとする住環境──子どもの遊び場、保育・教育施設、医療施設、生活利便施設等が整っています」と明記している。

 これをそのまま受け取ると、「保育園落ちた、日本死ね」とは無縁の恵まれた環境のように感じられる。しかし、ウェブサイト「住まいサーフィン」のコンテンツ、「23区内で保育所に入りやすい駅ランキング」で調べると、実際にはそれとは相反する環境であることが分かってくる。

 「足立区──保育園に入りやすい駅ランキング」では、全19駅のうち、最寄りの伊勢崎線「西新井」駅は上から15番目(下から5番目)で、2017年の推計待機児童数は実に71人に達している。まさに「保育園落ちた、日本死ね」そのものの厳しい環境なのである。

 いろいろ調べると、東洋経済オンラインにも2014年4月4日付で、「足立区の過酷な子育て事情──保育園入園もかなわず、復職もままならない」という記事が掲載されていた。

 「東京・足立区で、子どもを保育園に預けることが困難になっている。とりわけ大規模なマンション開発が続く梅田や西新井、千住大橋などの地区では、両親がフルタイム勤務の家庭でも、保育園への入園がかなわないケースが続出。母親の復職を阻む原因になっている・・・」。

 このように、子供を保育園に預けることが困難な地域に立地するマンションであるにもかかわらず、コスモスイニシアのニュースレターは、なぜ、「保育・教育施設が整っています」と記したのだろう。

 実は、東京都都市整備局「子育て支援住宅認定制度」の認定基準一覧・別表1「立地に関する基準」には、次のように記されている。

 このうち2「保育、教育施設等」を見ると、「マンションから800m以内に、保育所、幼稚園、あるいは小学校が1つ以上あれば基準を満たす」ことが分かる。実際問題として、現地から約270mの場所に島根小学校があり、約490mの距離に島根いちい保育園、同じく約490mにこだま幼稚園がある。

 そして、基準を満たしているからには、コスモスイニシアは事業者として、「子どもの遊び場、保育・教育施設、医療施設」は整っていると記そうという気持ちになるのも無理はない。

 しかし「住まいサーフィン」は西新井駅の待機児童を82人とし、隣接する竹ノ塚駅は162人とさらに過酷になっているのである。

 要するに、東京都都市整備局「子育て支援住宅認定制度」の「立地に関する基準」は、過酷な子育て事情に泣く足立区民の実情には目をつむっている。このような手抜き行政もまた、都民ファーストの小池百合子都知事が、陣頭に立って指導しなければ改善できないのだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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