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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2008年12月20日

第1回 グロブナー社の強い信念

 英国に本社を置く不動産グループ、グロブナー社が、日本の第1号物件となる高級集合住宅「グロブナープレイス神園町」 を竣工させた。所在地は東京・渋谷区代々木神園町3番3号。代々木公園に隣接する約6000平方メートルほどの敷地である。

 11月下旬に行われた記者発表で感じ入ったのは、「質が良くデザインが優れたプレミアム住宅を創りたい」とする、 グロブナー社の強い意志である。

 デザインコンセプトを手がけた、建築家のポール・デイビス氏はわざわざロンドンから駆けつけ、 「まだ時差ボケが抜けません」とユーモアを交えながら、設計者としての思いを熱く語った。 デイビス氏に負けじと、共同設計者の森大介氏(安井建築設計事務所)も熱かった。

 この住宅の最大の魅力は、四方を緑に囲まれた環境と、高品質でヒューマンで美しい建築空間にある。 2000年以降、東京につくられた高級集合住宅のなかで、トップに近い出来映えである。

 記者発表は、質疑応答と内覧会を合わせて3時間30分というロングランだが、内覧会への参加者たちは、 住宅を隅々まで歩き回り、ぎりぎりまで立ち去ろうとしなかった。建物の出来映えと、設計者の思い入れに魅せられたからである。

 「グロブナープレイス神園町」は総戸数45戸で、専有面積は154-364平方メートルと広い。 賃料は月150万-300万円台が中心で、坪当たり賃料は2万7000円になる。 この不況下で入居者がうまく集まるか心配になるが、グロブナー・アジアパシフィック社の ニコラス・ルー氏は、「中長期的には、プレミアムな住宅は必ず支持される」と揺らがない。

 グロブナー社は、英国で最も裕福な貴族とされるウェストミンスター公爵家の プライベートカンパニーで、300年以上の歴史を持ち、ロンドンの高級街であるメイフェア、 ベルグラヴィアなどを所有する。長い歴史に裏打ちされた自信がいわせる言葉なのだろう。

 施工は鹿島。施工単価は見た目には坪150万~200万円クラスだが、 実際には「坪100万円程度」(安井事務所・森大介氏)。建築費が高騰する以前の契約だったので、 この単価で済んだという。グロブナー社の信念とポール・デイビス氏の熱い思いに、 「幸運の女神」が微笑んでくれた形になった。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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