リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年9月24日

第325回 スーモの「新築分譲マンション人気ランキング」を不可解と判断した理由(中編)

 前編では、不動産ポータルサイトの「2018年版・新築分譲マンション人気ランキング」について、説明した(下にその採点表を再掲載)。


 このうち、「アットホーム」「ライフルホームズ」「メジャーセブン」「ヤフー不動産」については、採点の理由を詳述した。

 ただし、不可解と採点した「スーモ」については、事情を説明しようとすると、話がずいぶん長くなってしまう。それゆえに、この中編に回した次第である。

 なお、以下の話はあくまでも2018年末までの事態(現象)で、2019年に入ると事情が大きく変わってしまう。よって、それを前提にして、読み進めてもらいたい。

■■■2018年版のウェブサイト「スーモ」は、マンション人気ランキングを不掲載


<https://suumo.jp/ms/shinchiku/>

 リクルート住まいカンパニーの不動産ポータルサイト「スーモ新築マンション」には、「調査・ランキング」と名付けたコーナーがある。

<https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/oyaku_category/ms_shinchiku/ms_data/>

 このコーナーには、色々なコンテンツが掲載されている。その代表例は、毎年発表される「住みたい街ランキング」である。

 しかしながら、2018年版の「スーモ」には、「マンション人気ランキング」は掲載されていなかった。なぜだろう?

■■■情報誌『スーモ関西版』に掲載される新築分譲マンション人気ランキング

 ここから先は、話が一気にややこしくなっていく。2018年版の情報誌『スーモ新築マンション関西版』には、どういう訳か、「スーモ検索ランキング」という名前の「新築分譲マンション人気ランキング(1位〜20位)」が、ときどき掲載されているのである。

 下の写真は『スーモ関西版』2018年11月27日号の表紙である。その右下に、「スーモ検索ランキング」と、小さい文字で書かれている。


 これは、約1ヵ月前の同誌に掲載された物件が、ウェブサイト「スーモ新築マンション」で検索された回数を、1週間単位で集計したデータをもとに作成されたマンション人気ランキングだという。

 それでは、ウェブサイト「スーモ新築マンション」で集計した「総合ランキング(1位〜20位)」を、なぜウェブサイト「スーモ新築マンション」ではなく、わざわざ情報誌『スーモ新築マンション関西版』に掲載するのだろう?

 もう1つ解せないのは、情報の鮮度である。ウェブサイト「スーモ新築マンション」にランキングを掲載すれば鮮度はフレッシュだが、それをわざわざ情報誌『スーモ』に掲載すると鮮度はガタ落ちになる。なにゆえに、こんな愚かな行為をしているのだろう?

■■■雑誌『スーモ首都圏版』の「人気マンションTOP25ランキング特集」

 そして、情報誌『スーモ首都圏版』には、さらに奇妙な話がある。『スーモ首都圏版』にはここ数年間、『スーモ関西版』と同じ構成の「マンション人気ランキング」が掲載された気配がないのである。なぜだろう?

 話はさらに複雑になる。情報誌『スーモ新築マンション首都圏版(2017年10月17日号)』には、どういうワケかは知らないが、「2017上半期ランキング──人気マンションTOP25」という特集が掲載されたことがある。

 念のために、その「証拠写真」を添付しておいた。


 これはウェブサイト「スーモ新築マンション」に、2017年4月3日~9月12日に掲載された物件の、週平均閲覧者数をもとに作成したランキングだという。

 ウェブサイト「スーモ新築マンション」で集計した「総合ランキング」を、なぜウェブサイト「スーモ新築マンション」ではなく、わざわざ週刊情報誌『スーモ新築マンション首都圏版』に掲載するのだろう?

 それだけなら、「ハテナマーク(?)」が1個で済んだのだが、その後の経過を観察してみると、「ハテナマーク」が1個では済まないような事態に発展している。

 上記の証拠写真に示すように、2017年10月17日号には、確かに「2017上半期ランキング 人気マンション TOP25」が掲載された。

 それにもにもかかわらず、どういうワケか「2017下半期ランキング 人気マンション TOP25」は、掲載されなかったのである。なぜだろう???

 私が情報誌『スーモ』を、チェックした期間を明示しておこう。

 2017年──「10月17日号〜12月26日号」
 2018年──「1月9日号〜12月25日号」

 私はまず、2017年の「10月17日号」から「12月26日号」まで、すべての号に関して、表紙と目次をチェックしてみた。しかし「2017下半期ランキング」は見当たらないのである。

 そして、念には念を入れる意味で、2018年の「1月9日号」から「12月25日号」まで、すべての号に関して表紙をチェックしてみた。しかし「2017下半期ランキング」は見当たらないのである。

■■■情報誌『スーモ首都圏版』はランキングが大好きなのに・・・

 可能性があるとすれば、情報誌『スーモ新築マンション首都圏版』が「ランキング」形式の記事を嫌いになったため、という風にも考えられる。

 そこで、バックナンバーをもう一度、調べてみた。

 2017年12月26日号「東京23区住み心地ランキング」
 2018年2月6日号「お買い得な街ランキング」
 2018年2月27日号「TOKYO資産価値ランキング」
 2018年5月15日号「街の成長力ランキング」
 2018年6月26日号「街の成長力ランキング」
 2018年8月29日号「穴場な街ランキング」
 2018年9月11日号「東京23区住み心地ランキング」
 2018年10月9日号「通勤30分圏狙い目の街ランキング」
 2018年10月23日号「東京23区子育て力ランキング」

 2017年版の残り、および2018年版をざっと振り返っただけでも、「ランキング形式の特集」がズラリと並んでいる。つまり、情報誌『スーモ新築マンション首都圏版』は、ランキングが大好きなのである。

 それなのに、なぜ「2017下半期ランキング 人気マンション TOP25」は、掲載されなかったのだろう。疑問がフツフツと湧いてくる?????

 以下、一問一答形式で考えてみたい。なお、ここにはウェブサイト「スーモ」、および情報誌『スーモ』の話が出てくるので、混乱しないように気をつけてほしい。

■■■ウェブサイト「スーモ」が人気ランキングを掲載しない理由

 問「2018年版のウェブサイト『スーモ』には、なぜ新築分譲マンション人気ランキングが掲載されなかったのでしょうか?」

 答「マンションデベロッパー各社の販売担当者が、リクルートの人気ランキングに対して、一種の不信感を抱いているためという説が有力です」

 問「不信感とは何ですか?」

 答「リクルートはデベロッパー各社を広告料金の総額に応じて優遇し、ウェブサイト『スーモ』および情報誌『スーモ』ともに、物件情報を目立つ場所に掲載する傾向がある、という受け止め方です」

 問「目立つ場所に掲載した物件は、当然ながらアクセス回数が増えます・・・。つまり、間接的に人気ランキングが操作されているようなもの、という見方ですね」

 答「はい、そうです。デベロッパー各社に不信感を持たれたとしたら、人気ランキングの掲載を自粛せざるを得ないのではないでしょうか」

 問「それは、誰から聞いた話ですか?」

 答「取材源を守る立場から、デベロッパー各社の販売担当者としか答えられません」

 問「複数ですか?」

 答「はい、そうです」

■■■情報誌『スーモ関西版』に人気ランキングが掲載される理由

 問「話を進めます。情報誌『スーモ新築マンション関西版』に、ウェブサイト『スーモ新築マンション』で集計した人気ランキング(検索ランキング)が、ときどき掲載されているのはなぜですか?」

 答「人気ランキングは読者に好まれます。特に関西の人にその傾向が強い。そのためリクルートとして、情報誌『スーモ新築マンション関西版』にときどき掲載してみたら、デベロッパー各社はそれを許してくれた。よって、今では目玉記事になっているようです」

 問「なるほど。押しの強い関西人に配慮して、『関西版』だけに掲載しているのですね?」

 答「はい、そういう感じかと・・・」

■■■情報誌『スーモ首都圏版』に〘2017年下半期ランキング〙が不掲載の理由

 問「それでは、情報誌『スーモ新築マンション首都圏版』に、〘2017年上半期ランキング〙が掲載されたにもかかわらず、〘2017年下半期ランキング〙はなぜ掲載されなかったのですか?」

 答「編集サイドだけで判断するのであれば、〘上半期ランキング〙の特集を掲載したら、必ず〘下半期ランキング〙の特集も掲載します。そうしなければ、読者は戸惑ってしまいます」

 問「私自身も、かつて雑誌の編集長でしたので、その辺の事情は分かります。ということは?」

 答「同誌に広告を大量に出稿しているマンションデベロッパーが、同誌の広告担当者に対して、ランキング特集について何らかのクレームを伝えたのではないでしょうか。そのため、あわてた広告担当者が、編集担当者に圧力をかけた・・・」

 問「そういう場合、編集担当者は圧力をはね除けようとしないのですか」

 答「同誌は価格が0円の無代誌です。要するに、マンションデベロッパーからの広告収入だけで支えられているワケです。したがって、広告担当者の力は圧倒的です」

 問「そういう感じですか?」

 答「はい、そういう感じかと・・・」

■■■『ライフルホームズ』や『アットホーム』との違い違い

 問「だとしたら、『ライフルホームズ』や『アットホーム』は、なぜウェブサイトに人気ランキングを掲載できているのですか?」

 答「2つの可能性が考えられます。1つ目は、『ライフルホームズ』や『アットホーム』は、デベロッパー各社を広告料金の総額に応じて優遇し、物件情報をウェブサイトの目立つ場所に掲載するような行為をしなかった、ということです」

 問「情報の出所は、デベロッパー各社の販売担当者ですか?」

 答「はい。複数社の担当者に聞いた話です」

 問「2つ目は、何ですか?」

 答「『スーモ』の影響力は大きいので、デベロッパー各社はまず『スーモ』を気にします。しかし、『ライフルホームズ』や『アットホーム』はそれほどでもないので、デベロッパー各社も余り気にしていない・・・」

 問「そういうことですか?」

 答「はい、そういうことです」

 問「それにしても、現在のような状態に落ち着いたことは、リクルートによる独占体制を防ぐ意味では良かったかもしれませんね?」

 答「『ライフルホームズ』の売上げは、『スーモ』の約3割に過ぎません。また『アットホーム』も同レベルと思われます。すなわち、彼らは『スーモ』に対抗するために、アクセス数を増やさなければならない立場にあります」

 問「その目的のためにも、人気ランキングを大切にしている?」

 答「はい、そういう感じかと・・・」

 以上のようなプロセスを経て、ウェブサイト「スーモ」を星(★)の数で評価することを断念。それゆえに、「2018年版・新築分譲マンション人気ランキング採点表」に、単に「不可解」と表記した次第である。

(※注)以下、後編に続く。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


BackNumber


Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.