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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年5月28日

第318回 国交省・総合調査が示す「分譲マンション生活の知られざる実態」(前編)

 国土交通省・住宅局市街地建築課・マンション政策室は、2019年4月26日に、「平成30年度マンション総合調査結果報告書」を公表した。

 これはマンション管理の実態を把握するため、約5年に1度の割合で行う重要なアンケート調査で、マンション管理組合、マンション管理会社、マンションデベロッパーなどからの注目度が高い。

 今回は全国4200のマンション管理組合、8400の区分所有者を対象にしてアンケート調査を実施。有効回答数は組合が1688件、所有者が3211件だった。

 このうち前編では、「分譲マンション生活の知られざる実態」について説明する。

〔平成30年度マンション総合調査結果〕  http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000058.html

■■■マンションの「取得方法」(新築と中古の割合)


 アンケートに回答した区分所有者3211人のうち、新築で購入が62.3%、中古で購入が35.1%だった。中古の割合が多いのが印象的である。この種のデータが公表されたのは、今回が初めてと思われる。

■■■高齢化が進む「世帯主の年齢」

 次の表は「世帯主の年齢」である。過去4回の調査(平成11年度、15年度、20年度、25年度)と、今回の調査(平成30年度)を比較する形で示している。


〔30歳未満・30歳代が13.7%も減少〕
  平成11年度20.8% ⇒ 平成30年度7.1%
〔40歳代は9%減少〕
  平成11年度27.9% ⇒ 平成30年度18.9%
〔50歳代はほぼ同じ〕
  平成11年度25.1% ⇒ 平成30年度24.3%
〔60歳代は8.6%増加〕
  平成11年度18.4% ⇒ 平成30年度27.0%
〔70歳代以上が14.9%も増加〕
  平成11年度7.3%  ⇒ 平成30年度22.2%

 これを見ると、「30歳未満・30歳代が減少」した分だけ、「70歳代以上が増加」。また「40歳代が減少」した分だけ、「60歳代が増加」。そして「50歳代はほぼ同じ」、という傾向が見て取れる。

■■■古いマンションほど「賃貸戸数の割合」が増える 

 次の表は「賃貸戸数の割合」である。今回の調査(平成30年度)の時点で、マンションの完成年次別に賃貸住戸の割合(20%超、0%超〜20%、0%、不明)を示している。古い分譲マンションほど、「賃貸戸数の割合」が高くなる傾向にある。

 また表には示されていないが、平成30年度には、賃貸住戸があるマンションが74.8%、賃貸住戸がないマンションが11.6%、不明が13.7%という内訳である。


■■■古いマンションほど「空室戸数の割合」が増える 

 次の表は「空室戸数の割合」である。今回の調査(平成30年度)の時点で、完成年次別に3ヵ月以上「空室」になっている戸数の割合(20%超、0%超〜20%、0%、不明)を示している。そして古い分譲マンションほど、「空室戸数の割合」が高くなる傾向にある。

 また表には示されていないが、全体では、空室住戸が20%を超えるマンションが1.2%、空室住戸がないマンションが47.9%ある。そして空室戸数の平均値は2.7%になっている。


■■■空室のうち「所在不明・連絡先不通の戸数」の割合

 分譲マンションで空室が発生した場合、問題になるのは所有者の「所在が不明」だったり、「連絡先が不通」だったりする場合である。

 次の図「所在不明・連絡先不通の戸数の割合」は、少し分かりにくい。

 (1)まず「空室なし」47.9%、および「回答なし」16.8%は、問題がないので対象から外して考える。

 (2)次に「空室があるが、所在不明・連絡先不通の住戸がないマンション」31.4%は、所在が分かるし、連絡も取れるため問題がないので、同じく対象から外して考える。

 すると次の2タイプが残る。

 (A)黒色──全体の2.2%
 「マンションの総戸数に対する所在不明・連絡先不通住戸が、20%を超えるマンション」

 (B)濃い灰色──全体の1.7%
 「マンションの総戸数に対する所在不明・連絡先不通住戸が、0%超〜20%のマンション」

 特にAタイプの場合には、マンション管理費の不足という問題に加えて、管理組合の総会で特別決議(組合員数の75%以上)や建替決議(同80%以上)をする場合、深刻な事態に陥ってしまいかねないため心配である。


■■■高まる永住意識、平成30年度には62.8%に

 次の表に示すように、分譲マンションへの永住意識は、調査を重ねる度に高くなり、平成30年度には62.8%に達した。

 また下の図には示されていないが、完成時期が古くなるほど永住意識が高くなり、また年齢別では年齢が高くなるほど永住意識が高くなる傾向にある。


■■■トラブル発生の確率は低下

 次の表は「トラブルの発生状況」である。調査した年度(平成15年度、20年度、25年度、30年度)が新しくなる度に、幸いにもトラブル発生の確率(%)は低くなっている。


 トラブルの内容としては、「居住者間のマナー」が55.9%と最も多い。2番目は「建物の不具合」が31.1%、3番目は「費用負担」が25.5%となっている。 

■■■「居住者間のマナーをめぐるトラブル」の具体的内容


 上の表には、「居住者間のマナーをめぐるトラブル」の具体的内容を示した。平成30年度には、「生活音が」38.0%と最も多く、次いで「違法駐車・違法駐輪」が28.1%、「ペット飼育」が18.1%となっている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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