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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年11月6日

第300回 「グッドデザイン賞」と「三菱地所、三井不動産、野村不動産の広報活動」

 10月は「グッドデザイン賞」の季節である。初めにグッドデザイン賞の仕組みを、簡単に説明しておこう(下の表)。


 まず10月上旬に、応募作品の3割程度に相当する1000〜1500件がグッドデザイン賞に選出され、そのうち100件がベスト100賞に選ばれる。

 次に10月末日に、ベスト100賞の中から特別賞、すなわちグッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)1件、グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)19件、グッドフォーカス賞計12件が選ばれてフィナーレを迎える。

 2018年度には、応募作品4789件の中から1353件がグッドデザイン賞に選ばれた。

 これを受けて、マンション・デベロッパー各社は「グッドデザイン賞を受賞しました」という趣旨のプレスリリース(ニュースリリース)を、競い合うかのように発表した。主要各社の受賞件数をまとめた(下の表)。


 この一覧表を眺めて、「三菱地所、大和ハウス、大京の広報担当者は発表の仕方が上手だった」のに、「三井不動産は上手ではなかった」と感じた。

 三菱地所はグループ4社の名前でプレスリリースを作成したため、受賞件数が13件になって1位の座を占めることに成功した。しかし三井不動産の場合には、三井不動産と三井不動産レジデンシャルが個別にプレスリリースを作成したために、いわば票が割れて、「単独5位(4件)」ではなく「同点5位(2件)」に甘んじたのである。

 

 さて、グッドデザイン賞は、公益財団法人・日本デザイン振興会が、生活の質を向上させ社会を豊かにする「デザイン」に対して贈る賞で、各企業および担当デザイナーにとっては、「受賞できれば大きな名誉を感じる賞」になっている。

 グッドデザイン賞は19ユニット(部門)に分かれている。その内訳を、表にまとめた(下の表)。 


これら19種類のユニットのうち、マンション・デベロッパー各社が関係するのは、主としてユニット11の「住宅(中〜大規模集合住宅)」である。

【ユニット11の審査委員】
 審査責任者─建築家で日本女子大学教授の篠原聡子氏
 審査委員─建築家で首都大学東京助教の猪熊純氏
 審査委員─建築家の西田司氏

【ユニット11の受賞作品の内訳】
    グッドデザイン賞─44件
  ベスト100賞─3件

 このうちベスト100賞を受賞した、3件の作品名と受賞企業名を記す。
 「仮設HUB拠点-まちへの新しい挨拶の形」
  (野村不動産ホールディングスが受賞)

 「岩手県釜石市の大町復興住宅1号、天神復興住宅」
  (大和ハウス工業岩手支店ほか2者が受賞)

 「愛知県美浜町の町営住宅河和第二団地」
  (studio velocity一級建築士事務所が受賞)

 一方、グッドデザイン賞を受賞した44件は、個々の分譲マンションがそのデザインを評価されたケースが多い。

 こういう予備知識を基に、マンション・デベロッパー各社の「2018年度グッドデザイン賞の受賞結果」を総括すると、最も輝かしい成果を納めたのは野村不動産だったといえる。

 まず「仮設HUB拠点(プラウドシティ日吉計画地)──まちへの新しい挨拶の形」が、ベスト100賞を獲得した。

【仮設HUB拠点の概要】
 既存住宅地域におけるデベロッパーによる住宅開発は、地域に新住民を受入れ、街を更新していく手法として有効である反面、地域への登場の仕方が、数年に渡る工事期間の仮囲いとなる。

 その間のデザインとして、地域住民に対し、新しくできる場所をまちの価値として受入れてもらい、一緒に楽しみ、成長していくことができるよう、開発用地の一部を地域に開くデザインを考案。

 ハードは既存土地にある樹木等を活かし、場所の使い方を高めるよう、持ち運びできるサイズの什器、備品をデザイン(一人〜数十人の使用に対応)。ソフトは、アウトドアや運動や食や写真など幾つかのレシピを地域の大学や企業やコミュニティを巻き込み開発し定着を図る。



【審査委員の評価】
 大開発で作られる仮囲いに囲まれた遊休地が街に開かれ、地域のハブになっていく考え方がすばらしい。参加者だけでなく、ただ脇の歩道を通る人にとっても、心地よい風景となりそうだ。豊かな街の日常が、こうした余白の利用から生まれてくることを想像させてくれる、大変刺激的な取り組みである──。

 このように、「仮設HUB拠点」は審査委員から高く評価されている。

 さらに、「プラウドタワー木場公園」「プラウド新宿中落合」「zuttocity-プラウドシティ塚口」「テラッセ納屋橋(プラウドタワー名古屋栄)」「プラウド駒込トレサージュ」「プラウド白金台」「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」「蘆花公園ザ・レジデンス」という8件の分譲マンションが、ユニット11部門のグッドデザイン賞を獲得した。

 それゆえに、野村不動産から送られてきたプレスリリースは、通常のPDFデータに加えて、受賞作品に関する画像データも添付されるなど極めて充実していた。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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