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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年4月17日

第64回震度6強と震度7の違い

 文科省の「首都直下地震プロジェクトチーム」は、3月上旬、「東京湾北部地震」により、東京23区東部の沿岸地域や、神奈川県と東京都の境界付近で、震度7の揺れが襲う可能性があると発表した。これを受けて政府の中央防災会議は、4月以降、「首都直下地震」による被害想定を見直す予定である。

 これまで想定されていた震度6強と震度7では、建物の被害はどれほど違うのだろうか。

 そもそも、1981年(昭和56 年)に施行された「新耐震基準」が要求しているのは、分かりやすく表現すると、「震度6強程度の地震が来ても、建物が倒壊しないこと」である。一方、震度7の地震に対しては、建物がどうなるのか曖昧でよく分からない。

 この問題について、気象庁の「震度解説表」は、おおむね次のように解説する。

 「震度7では、新耐震基準による木造建物はまれに傾くことがある。新耐震基準による鉄筋コンクリート造建物は、1 階あるいは中間階が変形し、まれに傾くものがある」。

 すなわち、気象庁の定義も、また分かりにくい。

 建築基準法と震度解説表に替わって登場するのは、阪神・淡路大震災の後につくられ、政府・中央防災会議が大地震の被害度判定に使う、「全壊率テーブル」という図である。


 2枚の図は「牛久市・ゆれやすさ防災マップ」から抽出した。これは、内閣府「東南海・南海地震防災対策に関する調査報告書」の図を、牛久市がビジュアルに加工し直したものだ。

 図は「非木造建物」と「木造建物」の2種類ある。非木造とは、鉄筋コンクリート造や鉄骨造のことなので、マンションも含まれる。

 図の縦軸は全壊率、横軸は計測震度になる。震度6強は計測震度で6.0以上?6.5未満、震度7は計測震度で6.5以上となる。曲線のうち、黒線は「1960年(昭和35年)以前の旧築」、緑線は「1961年(昭和36年)?1980年(昭和55年)までの中築」、青線は「1981年(昭和56 年)以降の新築」を意味する。

 「非木造建物の全壊率テーブル」を見ると、新耐震建物は、次のような判定になる。

 計測震度6.5 全壊率6%

 計測震度6.6 全壊率8%

 計測震度6.7 全壊率10%

 計測震度6.8 全壊率13%

 計測震度6.9 全壊率17%

 計測震度7.0 全壊率22%

 震度7は、計測震度6.5以上を意味する。同じ震度7であっても、計測震度6.5では新耐震建物の全壊率が6%にとどまるのに、計測震度が7.0になると、全壊率が一気に22%にまで跳ね上がることに注意しなければならない。

 このような被害を防ぐためには、住宅品確法が定める耐震等級制度を利用する方法がある。「耐震等級1」は建築基準法と同等の強度、「耐震等級2」は建築基準法の1.25倍の強度、「耐震等級3」は建築基準法の1.5倍の強度を確保するように義務づけている。

 「耐震等級3」の建物であれば、「計測震度7.0」にもほぼ耐えられる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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