リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年9月17日

第115回修繕積立金を2.4倍にしたパークシティ武蔵小杉

 日本で2番目に高い超高層マンション、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」の管理組合が、今年7月の総会で、50年間にわたる長期修繕計画を立案し、修繕積立金を約2.4倍に引き上げる議案を承認した。これは、週刊東洋経済が8月10─17日号の「マンション大規模修繕」特集で報じた。

 日本で1番高い超高層マンションは、三洋ホームズなどが分譲した大阪市の「北浜タワー」で、2009年竣工、209.4m、54階建て、465戸。これに対して、三井不動産レジデンシャルなどが分譲した、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」は2009年竣工、203.5m、59階建て、794戸である。

 マンションは当然のことではあるが、定期的に修繕しなければならない。財団法人マンション管理センターによると、鉄部塗装は4年ごと、外壁、バルコニー、屋上、廊下は12年ごと、給排水菅、ガス管、電気設備、給水設備、エレーベーターは20~30年ごとに修繕した方がいい。

 国土交通省が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(2011年4月)」で示した、必要な修繕積立金の額を紹介する。

 これは、マンションの共用部分に関して、新築から30年間に必要な修繕工事費の総額を、毎月均等に積み立てる方式(均等積立方式)にした場合に必要な、専有面積当たりの修繕積立金である。

 必要な修繕積立金は、建物の階数および延床面積によって異なる。例えば20階以上の場合には、専有面積1平方メートル当たりの平均値が月額で206円になる。

 仮に、専有面積が77.93平方メートルの住戸だと、修繕積立金は次のような金額になる。なお、金利は考慮しない。

 月額─1万6053円

 年額─19万2643円

 50年間─963万2150円─(1)

 一方、マーキュリー「リアナビ」の「マンションカタログ」によると、パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーのデータは次の通りだった。

 住戸数─794戸

 平均専有面積─77.93平方メートル

 平均修繕積立金─月額6780円

        (専有面積1平方メートル当たり87円)

 平均修繕積立金─54万2627円

        (1平方メートル当たり6963円)

 平均分譲価格─6141万円     

 平均坪単価─258万6000円

 これを基に、各種の積立金を計算する。

 月額─6780円

 年額─8万1360円

 50年間─406万8000円

 修繕積立基金─入居時54万2627円

 50年間総額─50年間分の修繕積立金+修繕積立基金

       ─461万0627円─(2)

 このように、50年間に必要な修繕積立金の総額が「(1)約963万円」であるのに、分譲時の修繕積立金が低すぎて総額が「(2)約461万円」にしかならないため、修繕積立金を約2.4倍に引き上げたのである。

 修繕積立金を引き上げることにしたきっかけは、パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー管理組合の理事会が、首都圏にある築30年以上のマンションの取引事例を調査したところ、修繕積立金が潤沢な物件ほど高値を維持しているという結論を得たためという。

 その結論にもとづいて、「住民による住民のための修繕ルール五箇条」を作成した。

 一 50年間の資金を確保する。

 二 修繕積立金の値上げは原則1回だけ。

 三 費用見積もりは保守的に行う。

 四 現在と将来の住民の負担を公平にする。

 五 当マンションは「50年安心」という評価を市場に定着させる。

 いわば、「ヴィンテージ・マンション」への道を歩み始めた、同理事会の的確な判断と賢明な行動を称えたい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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