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「斜め45度」の視点

2014年3月11日

第133回鉄筋コンクリート造マンションの受難期

 鉄筋コンクリート造マンションの受難期

 「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」問題2

 販売中止の事態に追い込まれた、「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」は、鉄筋コンクリート造、地上7階・地下1階である。

 マンションの構造は大きく鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造の3タイプに分かれる。そして、タワーマンションを除けば、「地震に強い」「遮音性が高い」などの理由から、現実的な選択は鉄筋コンクリート造に限られる。なお鉄筋コンクリート造には、柱と梁で支えるラーメン構造と、耐震壁(厚い壁)で支える壁式構造があって、「地震に強い」「遮音性が高い」という観点からは壁式構造に軍配が上がる。

 しかしこの鉄筋コンクリート造は現在、「建築費アップ」および「工期の長期化」という2重の圧力にさらされている。その影響を最も強く受けるのが、各階が各住戸によって細かく仕切られているため、施工にひときわ手間暇がかかるマンションである。

 鉄筋コンクリート造マンションを取り巻く厳しい現状を、3枚の図表で確認しておこう。1枚目は「建設技能労働者過不足率の推移─6職種」(国土交通省「建設労働需給調査結果」)。6職種とは、型枠工(土木&建築)・鉄筋工(土木&建築)・左官・とび工である。


 2013年(平成25年)12月時点では、不足している順に、とび工4.1%、型枠工(建築)4.0%、鉄筋工(建築)3.8%となる。このうち型枠工(建築)と鉄筋工(建築)の過不足率は、マンション着工増減の影響をもろに受ける。赤色の書き込みで示したように、住宅ミニバブルが終わってリーマンショックを迎えると、仕事が激減したため多くの人が離職。そういう状態で東日本大震災に遭遇して、今度は逆に型枠工と鉄筋工の人手不足が深刻化した。

 2枚目は図「建設業就業者の需給ギャップ将来予測」(建設経済研究所「建設経済レポート」2013年10月)である。これもまたすさまじい。

 建設作業員の絶対数を見ると、ピークの1997年には685万人だったのが、現在では182万人減って、503万人に減った。これが東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年時点には、さらに120万人も減って、383万人にまで落ち込む可能性が指摘されているのである。


 3枚目は図「建築費に占める労務費の変化」(「日経アーキテクチュア」2013年8月25日号)。これは思わずため息をつきたくなるようなデータである。

 人手が豊富だった1950年代には建築費の30%に過ぎなかった労務費の割合が、2013年には実に48%に達してしまったのである。


 図表は3枚といったが、念のためにもう1枚。図「建設業就業者数の推移」(建設経済研究所「建設経済レポート」2013年10月)である。


 1995年の最多年齢層は45~49歳、2000年は50~54歳、2005年は55~59歳、2010年は60~64歳。若い世代が減って、年毎に老齢化が進行しているのである。「南青山高樹町」の施工不良も、以上の人手不足が一因だったと推測される。

 現場作業員の負担を減らす構造を心がけない限り、鉄筋コンクリート造マンションの未来は開けない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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