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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年3月24日

第348回 羽田空港発着機の「新騒音問題」を徹底図解(後編)

 羽田空港の国際線の発着数を増やすために利用される、「東京都心の上空を通る新飛行ルート」は、どのような騒音をもたらすことになるのだろう。そして、それが原因になって、新ルートの周辺で不動産価値が下落するようなことはないのだろうか。

 国土交通省のウェブサイト「羽田空港のこれから」には、騒音の大きさを説明する、以下のような図が掲載されている(以下の画像は同ウェブサイトから引用)。

 URL <https://www.mlit.go.jp/koku/haneda/>


【■■■新宿上空の騒音は63〜70dB】

 上の図から、次のような情報を得ることができる。

 ① 離陸時に、羽田空港の滑走路から約4キロ離れた、川崎市川崎区千鳥町の上空約670〜945メートルの地点を通過する飛行機が、地上にもたらす騒音は約71〜80dB(デシベル)になる。

 ② 着陸時に、羽田空港の滑走路から約6キロ離れた、大井埠頭や大井町付近の上空約305メートルの地点を通過する飛行機が、地上にもたらす騒音は約76〜80dBになる。

 ③ 着陸時に、羽田空港の滑走路から約12キロ離れた、麻布や恵比寿や渋谷付近の上空約610メートルの地点を通過する飛行機が、地上にもたらす騒音は約68〜74dBになる。

 ④ 着陸時に、羽田空港の滑走路から約17キロ離れた、新宿付近の上空約915メートルの地点を通過する飛行機が、地上にもたらす騒音は約63〜70dBになる。

【■■■周辺音と航空機騒音の比較】

 こういった数値(デシベル)は、どのような意味を持つのだろう。国土交通省が作成した、「新飛行経路による影響」というタイトルが付けられた、Q&A方式の資料をチェックしてみよう。

 URL <https://www.mlit.go.jp/koku/haneda/faq/pdf/07.pdf>

 この中から、「気になるQ&A」をピックアップしてみた。

 Q 航空機からの音はどのように聞こえますか。

 A 一般に航空機が小さいほど音が小さく、大きいほど音も大きくなります。また一般に高度が高いほど音は小さく、高度が低いほど音は大きくなります。

 Q 生活周辺音と比較してどのぐらいの大きさですか。

 (※注) 回答は以下の図に要約


【■■■夜になると航空機の騒音が負担になる】

 Q 航空機の音の影響について、どのように評価するのですか。

 A 日中の時間帯にくらべ、夜の時間帯や早朝の時間帯の方がより負担を感じるため、夜22時〜朝7時までの時間帯は10倍に、夜19時から22時までの時間帯は約3倍に重みづけ(かさ上げ)した上で、トータルでの影響を評価することとされています。 


【■■■不動産価値の下落問題】

 Q 不動産価値が下落するのではないですか。

 A 一般的な不動産価値は、周辺の騒音等の環境面や立地、周辺施設等の地域要因だけではなく、人口の増減等の社会的要因、財政や金融等の経済的要因、土地利用計画等の行政的要因、あるいはそもそもの需要と供給のバランスなど経済情勢を含めた様々な要素が絡み合い決定されます。

 更に環境基準を満たす中であっても、音などの感じ方については個人差もあると考えています。

 このような中で、航空機の飛行経路と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を見出すことは難しいと考えています。

【■■■都市部における騒音の新しい目安】

 国交省が公開している資料だけでは、よく理解できない面がある。そのため次に、東京都環境科学研究所・応用研究所の須田忠明氏が執筆した論文、「都市部における騒音の新しい目安」をチェックしてみた。

 同論文のURL
 <https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/research-meeting/h18-01/1805-pp.pdf>

 この論文で須田氏は「等価騒音レベル」というコンセプトを紹介している(以下の画像は、同論文から引用)。 


 「等価騒音レベル」とは、上の図に示したように、「騒音のボリュームが波のように変化する事実」に着目して求めた、いわば「騒音の平均値」である。

 この等価騒音レベルを使用すると、下の図に示すような、「騒音の新しい目安」が得られる。


 上の図のうち、「昼の住宅地」と「夜の住宅地」を囲んだ赤色の丸印、および「昼の高層住宅」と「夜の高層住宅」を囲んだ青色の丸印に注目してほしい。 

 昼の住宅地──1時間平均の等価騒音レベルは42〜46くらい。
 夜の住宅地──1時間平均の等価騒音レベルは35〜39くらい。

 昼の高層住宅──1時間平均の等価騒音レベルは48〜52くらい。
 夜の高層住宅──1時間平均の等価騒音レベルは41〜45くらい。

 木造の戸建て住宅が多い「住宅地」は遮音性能が低いため、耐えられるレベルが35〜46くらいに限られる。それに対して、鉄筋コンクリート造のマンションが立つ「高層住宅」は遮音性能が高いため、耐えられるレベルが41〜52くらいにアップする。

 この図は要するに、建物の立地と建物の種類によって、耐えられる騒音のレベル(1時間の平均値)が違うことを示している。

【■■■自動車・電車の騒音と比べると航空機の方が「耐え難い」】


 上の図は「音源別」、すなわち「航空機(空路)」「電車(鉄道)」「自動車(道路交通)」から出る騒音に対して、不満(多少不満+不満)を感じる割合を比較した結果である。

 まず「自動車(道路交通)─緑色」から出る騒音に対しては、等価騒音レベルが約70デシベルのときに、「多少不満+不満」の割合が約82%になる。

 次に「電車(鉄道)─ピンク色」から出る騒音に対しては、等価騒音レベルが約70デシベルのときに、「多少不満+不満」の割合が約73%になる。

 それに対して「「航空機(空路)─紺色」から出る騒音に対しては、等価騒音レベルが約64デシベルのときに、「多少不満+不満」の割合がほぼ100%に達する。

 すなわち、自動車や電車から出る騒音に比べて、多くの人は航空機から出る騒音の方が「耐え難い」と感じるようである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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