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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年2月10日

第165回宝島文庫が説く「不動産心理学のコワ~い話」

 宝島社の新刊『住宅情報誌が書かない コワ~い不動産の話』 (宝島SUGOI文庫、2015年1月22日) が面白い。

 帯のキャッチコピーは「一生の買い物で後悔するな!」。一見すると、ユーザーにアピールしているように感じるが、実際に読んでみると、不動産のプロとしても、いい意味でも悪い意味でも勉強になる話が少なくない。

 切り口として目新しいのは「不動産心理学」というキーワード。新築マンション編のプロローグは、「コストカット物件を売り込むために、モデルルームのキッチンをオプションだらけにして、まずは女性を惹きつける。一方、商談中、売約済のリボンで男性を焦らせるなど、販売側は不動産心理学を駆使している」と綴る。

 その上で、「仕事のできる営業マンは不動産心理学を駆使する」と銘打って、3つのコラムを添付している。

 1「質問術。仕事のできる営業マンは3つの質問で年収を見極める」

 2「ハロー効果。購入者は直観で買うかどうかを決めている」

 3「アンカリング。誰も買わないような中古物件を最初に紹介するワナ」

 また、毎度お馴染みの切り口ではあるが、昨今は特に真剣に心配しなければならないのが、「3月竣工物件」の問題。「これから2020年までは、人件費などが急騰していることもあって、職人の確保が最優先のスケジュールになる。現場は綱渡り状態なのに加えて、売主側の検査員も不足しがちで、手抜きや見落としが多くなりがちなのは必然」。

 同書は「物件概要に掲載されている、建物の竣工予定日と入居予定日(引き渡し日)を比較して、2ヵ月程度の余裕があるかどうか確認したい」と強調しているが、これには私も同感する。

 【同書の目次】

 第1章 コワ~い新築住宅の話

 自分の理想の家を建てるつもりが、完成したのは業者の建てたい家だった

 第2章 コワ~い新築マンションの話

 今後出てくる見えないコストカット物件をつかまされる

 第3章 コワ~い中古住宅の話

 「欠陥住宅ババ抜きゲーム」が続く

 第4章 コワ?い中古マンションの話

 旧耐震、2006年以前マンションに注意

 中古マンションのうち旧耐震物件が要注意なのは分かるとして、2006年以前マンションがなぜ要注意かお分かりだろうか。

 かつて、マンション会社から施工を受けたはずの建設会社が、実際には建築費を中抜きして、実際には別の建設会社に「丸投げ」したために、手抜き工事が行われた例が少なくなかった。建設業法が改正されて、マンション工事において、その「丸投げ」が全面禁止されたのは2006年のこと。要するに、2006年が、分かれ目になるのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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