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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年3月31日

第171回東洋ゴム免震偽装問題に対するメジャーセブンの対応

 3月13日に発覚した、東洋ゴム工業の免震装置偽装事件がまずい展開をたどっている。同社は最初、次のように説明した。

 一「該当する製品および建物の数」

 高減衰ゴム系積層ゴム支承の2製品が、大臣認定を不正に取得していた。該当する該当する建物は55棟(そのうち共同住宅25棟)、免震装置は2052 基に及ぶ。

 二「今後の対策」

 速やかに検証(構造計算)を行って、安全性が確認できた製品に関しては大臣認定を改めて取得する。

 このうち、明らかに現実離れしているのが、二「今後の対策」で述べた、「安全性が確認できた製品に関しては大臣認定を改めて取得する」という方針である。そもそも大臣認定を改めて取得するためには、半年?1年単位の時間が必要になるが、現在稼働中の工事現場にそれだけの時間を待つゆとりはないはずである。

 また、偽装事件に巻き込まれた発注者、設計者、建設会社、マンション購入者が求めているのは、性能があやふやな免震装置2052基の総取り替えであろう。東洋ゴム工業は自らが引き起こした問題の深刻さ、関係者の気持ちを理解していないのである。

 各方面から非難された同社は、後日、「該当する免震装置2052基を総取り替えする」と表明し直した。

 さらに、一「該当する製品および建物の数」に関しても、同社は誤りを犯していた。すなわち、3月25日になって、「2製品だけではなく、全18製品で認定を不正に取得していた可能性がある。そのため、公表した55棟だけではなく、東洋ゴム工業の免震装置を使った全250棟(=55棟+195棟)を検査の対象にする」と説明し直した。

 このように、最初の説明が誤っていて、調査が進むにつれて新たな問題が発覚するのは、リスクコントロールの上では最悪のパターンである。

 

 今回の事件に関して、メジャーセブン(住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス)は、どのような行動を取ったのか。この原稿を執筆した、3月30日の午前10時段階の情報をまとめた。

 最も素早かったのは住友不動産である。まず、3月16日に、「現時点で大臣認定不適合が判明した55棟には、弊社の分譲済み物件および分譲中の物件は含まれていない」とニュースリリース。

 次いで、3月26日にも、「3月25日の東洋ゴム工業の新たな報道受けて、同社から正式な発表があり次第、弊社物件について鋭意調査し、速やかにご報告申し上げます」とニュースリリースした。

 住友不動産がニュースリリースを2回も発行しなければならなかったのは、いうまでもなく、東洋ゴム工業のリスクコントロールが下手だったためである。免震装置に関しては同社の未来は暗い。

 他には、東急不動産が3月17日に、「大臣認定不適合が判明した55 棟には当社の物件は含まれていない」とニュースリリースしている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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