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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年2月17日

第166回住友不動産と「コロンブスの卵」

 住友不動産は2012年から、住戸設計をセミオーダーメード化した「カスタムオーダー方式」を導入した。これは間取りを決める上では「コロンブスの卵」と評してもいい画期的な方式であるにもかかわらず、少し分かりにくい点もあるため、マンション各社の企画・販売担当者が誤解している面がないわけではない。よって、住友不動産「カスタムオーダー方式」が、なぜコロンブスの卵であるのかを確認しておきたい。

 コロンブスの卵とは、誰かがやった後なら簡単そうに見えることでも、最初にそれを思いつき実行することは難しく、貴重であることをいう。

 さて、分譲マンションの住戸の間取りを決める方法には、大きく「標準プラン」、「メニュープラン」、「オーダーメード」という3つの大方式があり、その下に「選択方式」「オプション方式」という2つの小方式がある。

 【3つの大方式】

 「標準プラン方式」──マンション会社が標準的なプランを用意する方式。

 「メニュープラン方式」──マンション会社が標準プランに加えて、数種類の代替プランを用意する方式。

 「オーダーメード(自由設計)方式」──水回りの空間を除いて、購入者が自由に注文できる方式。

 【2つの小方式】

 「選択方式」──家具・建材の色彩や素材を、選択肢の中から選ぶ方式。

 「オプション方式」──器具や設備を追加注文したり、グレードを上げたりする方式で、追加料金が発生する。

 いわゆるメジャーセブンのうち、大京、東急不動産、東京建物、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスの5社は、「メニュープラン方式」+「選択方式」「オプション方式」を主力にしている。一方、野村不動産は比較的規模が小さい高級物件に「オーダーメード方式」を採用。2000年から2014年までの15年間で、200棟3000戸超もの実績をあげてきた。

 これに対して、住友不動産の「カスタムオーダー方式」には2つの特徴がある。

 特徴1。キッチンやバスルームなど、水回りの位置を動かした(変更した)間取りの選択を可能にした。この水回りの位置を動かすというのが、コロンブスの卵に相当する。

 特徴2。選択できる間取りの数を、従来の2?3種類から、最大で13種類にまで増やした。これが可能になったのは、水回りの位置を動かしたためである。

 上の図では、水回りの位置を青色で示した。

 1つの住戸ごとに、標準プランとメニュープランを3種類、水回りの位置を4種類用意すれば、「3×4=12種類」の間取りになる。すなわち、水回りを固定して12種類の間取りを苦心して考案するのではなく、水回りを動かすことによってシステマチックに創り出すのである。

 新方式を開発するに際し、同社は2年以内にマンションを購入した500人にアンケート調査し、「間取りを選ぶには、どのような方法が良いですか?」と聞いた。

 1位「水回り位置の異なる複数の間取りから選ぶ45%」

 2位「水回りを固定した複数の間取りから選ぶ28%」

 3位「すべて自由に設計できる18%」

 4位「部屋数が希望と合えば選択肢はいらない8%」

 1位と2位の微妙な違いを重視した着眼点が、コロンブスの卵につながったことになる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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