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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年5月26日

第352回 必読資料、国交省「不動産各社向け新型コロナ対策ガイドライン」の要点

 国土交通省は先頃、「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」(令和2年5月20日版)を公表しました。

 このガイドラインは、「前半の要請文」と「後半の本文」の2本立てになっています。

 前半の要請文は、「国土交通省土地・建設産業局の不動産業課長」が「不動産関連団体の長」に宛てたものです。そこには、「貴職(不動産関連団体の長)におかれましては、貴団体加盟の事業者に周知いただくとともに、本ガイドラインを踏まえ、“三つの密”対策を徹底していただきますようお願いいたします」と記されています。 


 後半の本文は、「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(業界団体向け)・令和2年5月20日版」というタイトルです。

 「業界団体向け」と書いてはありますが、実際にはすべての不動産会社が必ず読まなければならない、極めて重要なガイドラインです。


 なぜ、「前半の要請文」と「後半の本文」という、2本立てになったのでしょうか。それは不動産会社(事業者)の数は全国で10万社を超えるといわれるのに加えて、毎年のように数千社が開業する一方では、数千社が廃業するというように出入りが激しいためです。

 したがって、国交省がすべての不動産各社(各事業者)に通知したいときには、不動産関連の各団体の協力を得なければならないのです。

 要請文のURL
<https://www.zennichi.or.jp/wp-content/uploads/2020/05/3c8091203a989ab37946352c52a59ffa.pdf>

 本文のURL
<https://www.zennichi.or.jp/wp-content/uploads/2020/05/09846b684f9192c7184de0ac1daa7b40.pdf>

【■■不動産業におけるガイドラインの構成】

 前置きはこれくらいにして、「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(業界団体向け)──令和2年5月20日版」を、詳しく読み込むことにしましょう。まず、全体の構成(目次)を抑えておきましょう。

 1 はじめに
 2 感染防止のための基本的な考え方
 3 講じるべき具体的な対策
  (01)感染予防対策の体制整備
  (02)健康の確保
  (03)勤務・通勤形態
  (04)事務所等における勤務
  (05)休憩・休息スペース
  (06)トイレ
  (07)設備・器具
  (08)従業員に対する感染防止策への啓発等
  (09)感染者が確認された場合の対応
  (10)事務所等における顧客との対応 ※
  (11)取引の対象となる現場での対応 ※

 このうち特に重要なのは、「3 講じるべき具体的な対策」のうち、営業活動に関係する「(10)事務所等における顧客との対応」、および「(11)取引物件の対象となる現場での対応」の2項目に絞られます(※印)。

【■■「(10)事務所等における顧客との対応」】

 この(10)では、「一般消費者との接客」を行う、事務所や店舗などにおける感染拡大防止策を説明しています。その要点をピックアップしましょう。

◆自社が管理するHPやSNSに対応方針を掲載し、お客様に対して感染拡大防止策への理解を求める。

◆事務所や店舗への来店やモデルルームや案内所等への来場はできる限り予約制にし、できる限り少人数での来店・来場を依頼し、お客様同士の距離を2メートルを目安に(最低1メートル)確保するよう努める。

◆お客様等との面談の日時・場所・相手方等を記録し、万一の感染の事態に備える。

◆室内の換気や消毒(例 ── 接客カウンター周辺、椅子、筆記用具、案内ツール、タブレット端末等)を積極的に行う。

◆契約書面(媒介契約も含む)、重要事項説明書の交付前に相手方に案文等を事前送付し、対面での説明時間の短縮を図るようにし、各種用語等の説明や疑問点は電話やWEBで丁寧な説明を実施する。

◆重要事項説明に「IT重説」の積極的な実施を行う(賃貸は解禁済み。売買は国土交通省社会実験登録事業者のみ社会実験として実施可)。

◆媒介契約に関し、当面の間、依頼者への報告は承諾を得た場合には、電話等の契約書であらかじめ定めた方法以外の方法によることも可能とする。また、更新の申し出についても双方で合意した場合には、文書以外の方法により申し出ることも可能とする(国土交通省令和2年5月1日付事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言を踏まえた宅地建物取引業者の業務について」)。

【取組事例の紹介】

◆来店を誘致するDMやチラシ配布等に代えて、メール、電話、インターネット、ビデオチャット等を活用し、対面での接客機会が増えないように工夫する。

◆事前にお客様に来店・来場時の質問や確認したい項目を整理して頂き、事前送付してもらう等の工夫により、長時間の会話・接客を避ける。

◆来店時のマスク着用、アルコール消毒等を案内し、マスク着用のないお客様に対してはマスクの配布を行う。

◆来店時に発熱の有無等を確認する。

◆お茶等の飲み物を提供する場合は、感染防止のためペットボトル等のまま提供する。

◆接客カウンターのお客様側座席の「隣の組」との間の距離を1メートル以上開ける。

◆接客カウンター等対面する場所は、アクリル板・ビニールカーテンなどを設置して遮断する。

◆書類や鍵は極力郵送など追跡可能な送付方法で対応する。

◆キッズスペースなど、子供を遊ばせるスペースは閉鎖する。

【■■「(11)取引の対象となる現場での対応」】

 この(11)では、取引の対象となる現場においても、「三つの密の回避やその影響を緩和するための対策の徹底について、取引の対象となる各現場ごとに適切な対応を図ることが必要である」と説明しています。

 ◆モデルルームや現地案内所等における各種の打合せ、更衣室等における着替えや食事・休憩等、現場で多人数が集まる場面や密室・密閉空間における作業等においては、他の従業員とできる限り2メートルを目安(最低1メートル)に、一定の距離を保つことや換気の励行等、三つの密の 回避や影響を緩和するための対策に万全を期す。

 ◆モデルルームや現地案内所等においても、事務所同様に感染防止対策を示したポスター(保健所等の連絡先を明記することが望ましい)やロゴ、看板を設置し、「三つの密」回避等の意識向上と作業姿勢の定着を図る。

 ◆現地案内は、できるだけ一組づつの予約制にし、説明時のお客様との距離を適切に保ち、同時に複数のお客様を案内する場合は、お客様同士の距離を適切に保つようにして、感染症対策に配慮する。

 ◆現場の物件の状況等を勘案しつつ、マスクを着用して、消毒液(アルコール等)の設置や、不特定の者が触れる箇所・物品の定期的な消毒を実施する。

【取組事例】

◆現地案内を行う場合でも出来るだけ現地集合、現地解散とする。

◆現地案内中やお客様が車に同乗する場合は、マスク着用や窓を開放する。

◆物件の内見中は窓を開け常時換気し、お客様の入れ替えごとにドアノブの消毒を行う。

◆お客様案内用の備品(スリッパ・手袋等)は、使い捨てに変える、または消毒を実施する。

◆居住中の物件の内見にあたり、居住者の意向を十分に確認し、長時間に及ばないように配慮する。

◆非対面で内見できる「写真、動画、VR、バーチャルツアー等のWEBサービスの活用」、あるいは「WEB会議システムやビデオ通話を活用」して担当者が現地から物件案内をお客様に視聴して頂くことにより、現地内見件数の削減を図る。

【■■ガイドラインのベースになった資料】

「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」は、2つの資料をベースにして作成されました。

 まず、政府(内閣官房)の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的方針(4月11日版)」です。次に、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(5月4日版)」です。

 緊急事態宣言下だけではなく、緊急事態宣言が終了した段階においても、「新型コロナウイルス感染症の感染リスクが低減し、早期診断から重症化予防までの“治療法”の確立、ワクチンの開発等により関係者の健康と安全・安心を十分に確保できる段階に至るまでの期間の事業活動に用いられるべきもの」とされています。

 ここでいう“治療法”が確立し、かつワクチンが開発されて、みんなが「安全や安心」を実感できるのは、いつ頃になるのでしょうか?

 信頼できる専門メデイアである『日経バイオテク』のウエブサイトには、5月7日付けで「ビル・ゲーツ氏──新型コロナのワクチンは最短9カ月、最長2年で開発できる」という記事が掲載されていました。

 すなわち、「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」は今後、かなりの長期間に渡って参照されるであろう、“必読の資料”ということになります。 

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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