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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年2月7日

第57回マンション建て替え「先行2社」の実績比較

 マンションの建て替えを得意とし、実績が多いのは新日鉄都市開発と旭化成不動産レジデンスである。少し気になることがあって、両社の実績のうち、データがはっきり分かる、各10件ずつの資料を比較した。

 気になることの第1は、建て替えられたマンションのうち、築年が最も新しいのは「いつであるか」ということ。

 築年の新しい順に並べる。

 1 位──アトラスタワー六本木(天城六本木マンション、ホーマット・ガーネット)。昭和46年と55年に竣工。

 2位──リビオ初台(初台サンハイツ)。昭和53年に竣工。

 3位──アトラス方南ビレッジ(方南ビレッジ)。昭和52年に竣工。

 少しほっとしたのは、この中に新耐震基準が施行された昭和56年(1981年)以降のマンションが含まれていなかったことだ。

 2011年の出来事で、最も印象に残ったのは、いうまでもなく東日本大震災である。しかし、それとは別に、平成4年(1992年)に竣工した大手町フィナンシャルセンター(24階建て)が、あっさり解体されてしまったことも記憶に残った。

 建築主(富士銀行、安田火災海上)、設計者(久米設計、三菱地所)、施工者(大成建設等7社JV)もさぞ戸惑ったことだろう。とはいっても、建築主である富士銀行、安田火災海上の名前は、企業合併によってすでに消えている。

 筆者としては、築年が10年足らずの建物が解体されることには、省エネの観点からも、違和感が残ってしまう。

 気になることの第2は、マンション管理組合が建て替えを決議したとして、容積率にどの程度のゆとりがあれば、不動産会社が引き受けてくれるのか、という点である。

 それを把握するために、「容積率のゆとり」=「新建物延床面積」÷「旧建物延床面積」、と定義して、その値が低い順に並べてみる。

 1位──アトラス方南ビレッジ(方南ビレッジ)。1.15倍。

     建替前15戸、建替後39戸。

 2位──アトラス日本橋鞍掛(鞍掛会館ビル)。1.37倍。

     建替前0戸(商業ビル)、建替後66戸。

 3位──プライア渋谷(金王町住宅)。1.42倍。

     建替前81戸、建替後124戸。

 これによれば、容積率のゆとりが1.15倍、1.37倍、1.42倍でも、不動産会社が建て替えを引き受けた事実が分かる。しかし、建替前と建替後の住戸数を比較すると、住戸数は最低でも24戸は増えている。

 すなわち、不動産会社が建て替えを引き受ける条件は、容積率のゆとりがある場合、または住戸数が20戸程度以上増える場合であることが分かる。

 気になることの第3は、新日鉄都市開発と旭化成不動産レジデンスが引き受けてきた、建替物件の比較(図1、図2)である。

 図のうち、(1)の見方を説明する。(1)は物件番号、2.4倍は「容積率のゆとり」、青線は「旧建物の延床面積」(単位は平方メートル)、茶線は「新建物の延床面積」を意味している。



 図1(新日鉄都市開発)と図2(旭化成不動産レジデンス)を比較すると、新日鉄都市開発の方が、「容積率のゆとり」の面で効率のいい案件を手がけてきたことが分かる。

 以下に、生データを掲載する。

 新日鉄都市開発の建て替え実績。最初に新建物の名称、カッコ内は旧建物の名称。上段が旧建物(建築年、延床面積、総戸数)、中段が新建物、下段が「容積率のゆとり」=「新建物延床面積」÷「旧建物延床面積」。

 (1)上目黒住宅(上目黒小川坂ハイツ)

 昭和33年、2913平方メートル、68戸

 昭和61年、6960平方メートル、98戸

 2.4倍

 (2)相模原スカイハイツ(ライフプラザ相模原)

 昭和38年、2538平方メートル、72戸

 平成3年、8374平方メートル、123戸

 3.3倍

 (3)鎌倉若宮ハイツ(若宮ハイツ)

 昭和33年、4488平方メートル、114戸

 平成5年、1万7971平方メートル、141戸

 4.0倍

 (4)小山コーポラス(ライフコート相模原)

 昭和44年、2495平方メートル、48戸

 平成5年、5933平方メートル、80戸

 2.4倍

 (5)プライア渋谷(金王町住宅)

 昭和31年、5043平方メートル、81戸+店舗

 平成20年、7144平方メートル、124戸

 1.4倍

 (6)リビオ新蒲田(新蒲田住宅)

 昭和44年、7780平方メートル、134戸

 平成19年、1万8000平方メートル、202戸

 2.3倍

 (7)リビオ初台(初台サンハイツ)

 昭和53年、2905平方メートル、40戸

 平成22年、6699平方メートル、86戸

 2.3倍

 (8)横浜紅葉坂レジデンス(花咲団地)

 昭和33年、5953平方メートル、88戸

 平成24年、4万1120平方メートル、365戸

 6.9倍

 (9)テラス渋谷美竹(美竹ビル)

 昭和37年、5640平方メートル、40戸+事務所

 平成25年、2万6720平方メートル、196戸+事務所等

 4.7倍

 (10) ザ・神宮前レジデンス(原宿住宅)

 昭和32年、4523平方メートル、112戸

 平成25年、2万6517平方メートル、220戸

 5.9倍

 旭化成不動産レジデンスの建て替え実績。

 (1)アトラス江戸川アパートメント(同潤会江戸川アパートメント)

 昭和9年、1万2270平方メートル、260戸

 平成17年、2万0221平方メートル、234戸

 1.6倍

 (2)アトラス諏訪町レジデンス(諏訪町住宅)

 昭和32年、3100平方メートル、60戸

 平成17年、6600平方メートル、96戸

 2.1倍

 (3)アトラス府中エクシード(ジードルンク府中)

 昭和51年、1556平方メートル、21戸

 平成17年、5885平方メートル、58戸

 3.8倍

 (4)アトラス国領(国領住宅)

 昭和39年、7363平方メートル、144戸

 平成20年、3万2587平方メートル、320戸

 4.4倍

 (5)アトラス野毛山(野毛山住宅)

 昭和31年、5207平方メートル、120戸

 平成20年、1万2749平方メートル、142戸

 2.4倍

 (6)アトラスタワー六本木(天城六本木マンション、ホーマット・ガーネット)

 昭和46・55年、4794平方メートル、39戸

 平成22年、1万2945平方メートル、90戸

 2.7倍

 (7)アトラス吉祥寺(下連雀住宅)

 昭和44年、4000平方メートル、79戸

 平成22年、9320平方メートル、108戸

 2.3倍

 (8)アトラス日本橋鞍掛(鞍掛会館ビル)

 昭和38年、1700平方メートル、──戸

 平成23年、2323平方メートル、66戸

 1.4倍

 (9)アトラス方南ビレッジ(方南ビレッジ)

 昭和52年、2600平方メートル、15戸+倉庫兼事務所

 平成23年、3000平方メートル、39戸

 1.1倍

 (10)谷町ビル

 昭和32年、1762平方メートル、16戸+事務所等

 平成24年、3918平方メートル、52戸

 2.2倍

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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