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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年2月12日

第94回オール電化マンションの「グレーゾーン」

 東京23区、名古屋市、大阪市という3大都市圏に立つ分譲マンションのうち、家族4人が住む専有面積70平方メートルの住戸では、最先端の設備を装備していた場合、1年間におおよそ55GJ(ギガジュール)程度の1次エネルギーを消費する。

 この55GJの内訳はつぎのようになる。

  (1) 暖冷房──約24%

  (2) 給湯──約25%

  (3) 照明・換気──約18%

  (4) 家電・調理──約33%

 暖冷房、給湯、調理などを電気でまかなうオール電化住宅で、最大のポイントになるのは、このうち住宅全体の約25%を占める給湯である。

 国土交通省「第6回省エネルギー判断基準等小委員会」(第3回低炭素基準合同会議)において、2012年9月19日に配布された「住宅の設計1次エネルギー消費量の試算例」、および建築環境・省エネルギー機構が作成した「住宅事業建築主の判断の基準におけるエネルギー消費量計算方法の解説」を対照することで、給湯機器の効率が明らかになる。

 この「試算例」と「解説」は、国が2012年12月4日に施行した「低炭素建物認定基準」、および2013年4月頃に施行する「省エネ新基準」の根拠となる資料である。

 すなわち、オール電化住宅で使用されるヒートポンプ式電気温水器、通称で「エコキュート」を採用していいかどうかを判断する、公的な資料が整ったことになる。

 

 上記「試算例」と「解説」によると、区分5(Ⅳa)、6(Ⅳb)、7(Ⅴ)地域に立つ共同住宅(マンション)について、給湯に使用するガス潜熱回収型給湯器、石油潜熱回収型給湯器、ヒートポンプ式電気温水器に関して、1次エネルギー消費量の概要だけを比較すると次のような結果になった。

 (1) 区分5(Ⅳa)地域──エコキュートは効率が悪い

   ガス潜熱回収型給湯器を使用

    15.4GJ/年──最低値の100.6%

   石油潜熱回収型給湯器を使用

    15.3GJ/年──最低値

   ヒートポンプ式電気温水器を使用

    16.2GJ/年──最低値の105.9%

 

 (2) 区分6(Ⅳb)地域──エコキュートは少しだけ効率が良い

   ガス潜熱回収型給湯器を使用

    13.9GJ/年──最低値の101.5%

   石油潜熱回収型給湯器を使用

    13.9GJ/年──最低値の101.5%

   ヒートポンプ式電気温水器を使用

    13.7GJ/年──最低値

   

 (3) 区分7(Ⅴ)地域──エコキュートは効率が良い

   ガス潜熱回収型給湯器を使用

    12.6GJ/年──最低値の106.8%

   石油潜熱回収型給湯器を使用

    12.6GJ/年──最低値の107.8%

   ヒートポンプ式電気温水器を使用

    11.8GJ/年──最低値

 このデータからは、次のような結論が得られる。

 

 【共同住宅の分岐点】

   1(Ⅰa)~5(Ⅳa)地域──エコキュートを採用しない方がいい

   6(Ⅳb)地域──エコキュートのグレーゾーンになる

   7(Ⅴ)~8(Ⅵ)地域──エコキュートを採用してもいい

  分譲マンションの最大の供給地となる東京23区、名古屋市、大阪市を含む6(Ⅳb)地域において、エコキュートは少しだけ効率が良いにもかかわらず、グレーゾーンとしたのには、2つの理由がある。

 1つは、住宅全体の1次エネルギー消費量が、エコキュートを100%としたとき、ガス式や石油式が100.4%であること。つまり、全体の効率が0.4%よくなるだけなので、あえて採用する理由にはなりにくい。

 もう1つは、電気料金の問題である。電力会社は、「深夜電力を用いるため費用が安い」として、エコキュートの宣伝に努めてきた。

 しかし、福島原発事故の影響によって電気料金の値上げが実施され、今後の収束地点はまだ見えていない。さらに、経済産業省の電気料金審査専門委員会は2012年7月2日、東京電力に、電気料金を5%割引く「オール電化住宅割引」の廃止を求めた。

 すなわち、6(Ⅳb)地域のうち特に東京電力の管内では、エコキュート住宅は、将来的に、電気料金が高いものにつく可能性を否定できない。よって、エコキュートの採用を勧めにくいのである。

  1(Ⅰa)~8(Ⅵ)地域の内訳は次の地図を参照。アラビア数字は新たに使われる区分表の表記で、カッコ内のローマ数字は従来使われていた区分表の表記である。


 また、区分5(Ⅳa)と区分6(Ⅳb)の詳細は、「国土交通省・省エネルギー判断基準等小委員会・低炭素建築物の認定基準(素案)」の35ページ以下に掲載されている。首都圏では、さいたま市は区分5(Ⅳa)、千葉市、東京23区、横浜市は区分6(Ⅳb)になっている。

  

  同資料のURL

  http://www.mlit.go.jp/common/000224669.pdf

 【参考資料】

 建築環境・省エネルギー機構「住宅事業建築主の判断基準」

 http://ees.ibec.or.jp/documents/index.php

 国土交通省・省エネルギー判断基準等小委員会

 「住宅の設計一次エネルギー消費量の試算例(案)」

 http://www.mlit.go.jp/common/000224672.pdf

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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