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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年1月29日

第308回 新築分譲マンションで「不適切な広告」を避けるための傾向と対策

 不動産に関する広告のうち、「実際には存在しない架空物件の広告」、「実際とは内容が異なる広告」、「すでに売却済みの物件の広告」などは、消費者をあざむくことを目的にしているため、「おとり広告」と呼ばれる。

 全国9ブロックにある不動産公正取引協議会は、その「おとり広告」を含む「不適切な広告」を減らすために、1963年に設立された。

 そのうち首都圏不動産公正取引協議会に報告された、「昨2018年のおとり広告の実例」の中から、特に印象に残るケースをピックアップしてみよう。
 <https://www.sfkoutori.or.jp/jirei/jireimenu.html>

■■■印象に残る「おとり広告」の実例

◇ケースA 架空の物件
 物件の種類「新築住宅9物件」
 対象広告「アットホームに掲載」
 違反の概要「実際には存在しない架空の物件」
   ※入力の練習をしていた物件が、間違ってそのまま掲載された

 

◇ケースB 不当表示
 物件の種類「賃貸住宅10物件」
 対象広告「マイナビ賃貸、ライフルホームズに掲載」
 違反の概要「賃料に関する不当表示」
   ※賃料7万5000円を、6万8000円と表示

 

◇ケースC 不当表示
 物件の種類「新築分譲住宅4物件ほか」
 対象広告「スーモに掲載」
 違反の概要「間取りの不当表示」
   ※「1LDKおよび納戸2室」を、「3LDK」と表示

◇ケースD 契約済み
 物件の種類「新築住宅8物件」
 対象広告「スーモ、ライフルホームズ、ヤフー不動産に掲載」
 違反の概要「契約済み」
   ※契約済みから、長いもので4か月半以上、短いもので17日間掲載

 

■■■新築分譲マンションの「おとり広告」は皆無

 「おとり広告」のトレンドを把握する目的で、首都圏不動産公正取引協議会に報告された「違反事例」を、最近の2年間分に渡ってざっとチェックした。すると次のような事実が判明した。

 (1)「おとり広告」の大半は賃貸アパート・賃貸マンションなどの「賃貸住宅」が占めている。

 (2)その次に多いのは「新築分譲住宅(戸建て)」である。

 (3)「中古マンション」の事例はごく少数だった。

 (4)「新築分譲マンション」の事例は皆無だった。

■■■新築分譲マンション広告の要注意点

 新築分譲マンションの「おとり広告」は皆無、というのは好ましい傾向である。しかし、それで油断してはいけない。

 念のために、新築分譲マンションの広告の要注意点を調べるため、首都圏不動産公正取引協議会に報告された、「不動産広告の相談事例(表示規約)」をチェックしてみた。
<https://www.sfkoutori.or.jp/jirei/jireimenu.html>

〘Q1.建築確認や開発許可を受けていない物件でも「予告広告」ならできますか?〙

 建築確認や開発許可を受けるまでは、販売予告等と称しても、一切の広告はできません。なお、いわゆる「予告広告」というのは、新築分譲マンションの場合には、建築確認を受けているけれども、販売価格や募集賃料が決まっていない時に行うことができる広告手法です。

〘Q2.物件の現地に掲出する看板は、「広告表示の開始時期の制限の規定」の適用を受けますか?〙

 物件の現地に掲出する看板も、「広告表示の開始時期の制限の規定」の適用を受けますので、建築確認や開発許可を受けていない場合には、「広告」と見なされる表示は一切できません。

 ただし、(1)マンション等の建設予定地である旨、(2)事業者名、(3)電話番号の3項目のみを表示する限りにおいては、周辺住民等にお知らせする「お知らせ看板」的な表示と見なし、広告表示の開始時期の制限に違反しないものとして取り扱っています。

■■■「予告広告とシリーズ広告」には特に慎重に

 首都圏不動産公正取引協議会は、「予告広告とシリーズ広告」には、特に慎重に取り組むように促している。
<https://www.sfkoutori.or.jp/jirei/hyouji/004/004.html>

〘Q3.予告広告の内容と表示上の注意点を教えてください。〙

 消費者に物件選択の時間的余裕を与えるために、少なくとも物件の存在と価格や賃料以外の物件内容に関する情報を提供できる途を開くために、予告広告を認めたものです。 

〘Q4.予告広告で表示した販売戸数を本広告で減らすことはできますか?〙

 予告広告で表示した販売戸数や募集戸数を、本広告でどうしても減らしたいといった変更が生じる場合には、訂正広告をする必要があります。

 なお、販売戸数等だけでなく、専有面積の最小・最大面積や予定価格および予定最多価格帯の表示をしていた場合には、その数値が変更となる可能性がありますので、変更となるすべての事項について訂正広告を実施するようにしてください。

 最近の傾向を見ると、「予告広告で消費者の反響をみてから、価格や賃料、販売戸数等を調整するための手法」として、予告広告を捉えているフシが見受けられます。

 しかし、実際には、価格や賃料、販売戸数等の取引条件が確定しているのに、本広告を行わずにあえて予告広告を行うことは、予告広告の趣旨ではありません。

〘Q5.本広告前に、販売センターで「価格発表会」を開催する旨を表示した、予告広告を行うことはできますか?〙

 お尋ねの趣旨は、消費者にとって最も重要な情報の一つである価格を示さないまま、消費者の期待感をあおって販売センター等への来場をうながすための「じらし広告」をしてもよいかということと同じです。結論からいいますと、お尋ねのような広告は行うことができません。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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