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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年5月20日

第139回マンション市場を占う「明るい材料」と「懸念材料」

 みずほ信託銀行『不動産マーケットレポート』2014年3月号に掲載された、「2013年 東京圏の分譲マンション市場の動向」には、「明るい材料」と「懸念材料」が混在していた。まず「明るい材料」を見る。


 2013年の供給戸数は前年比23.8%増。平均販売価格と坪単価は前年比8%超の上昇。初月契約率は80%に近く、在庫は0.5万戸に減少した。市場は好調に推移した。

 これに、日本不動産鑑定士協会連合会の『世界地価等調査結果』(2013 年12月)で紹介された「世界主要都市のマンション価格」(東京を100として指数化)を重ね合わせると、市場の未来はバラ色に見える。


 各都市でそれぞれ標準的な広さのマンション1戸の価格を比べると、東京はニューヨークの4分の1、パリの3分の1、ロンドンの約2分の1という水準に収まっている。


 また、アジアの主要都市と比べると、東京はシンガポールの7分の1、香港の5分の1、北京や台北の約2分の1という水準に収まっている。このように世界の主要都市と比べて割安感があるので、海外の資金が東京に向かうことを期待できる。

 しかし、みずほ信託銀行『不動産マーケットレポート』に掲載された、別のデータを分析すると、今度は逆に「懸念材料」が見えてくる。


 東京圏を「東京23区」、「東京都下・神奈川県」、「埼玉県・千葉県」に3区分すると、東京23区の「一人勝ち現象」が顕著に現れている。

  東京23区─供給46%増

        価格5900万円、前年比10.8%増

  東京都下・神奈川県─供給横ばい

        価格4200万円、前年比横ばい

  埼玉県・千葉県─供給増

        価格3700万円、前年比横ばい

 建築費が急上昇している現在、東京23区に比べると建築費の負担が重くなる東京都下・神奈川県、埼玉県・千葉県地域では、新築市場は暗雲に覆われている。

 これに加えて、「マンション年収倍率」という懸念材料もある。東京カンテイが2013年7月30日に公表したプレスリリース、「新築マンション年収倍率」は以下のようになっている。


 年収倍率は東京都の9.84倍を筆頭に、神奈川県9.10、埼玉県8.22、千葉県7.40と高い。筆者は「年収倍率は5倍未満が望ましい」と教わった。この厳しい現実に、ユーザーはどこまで付いてこれるのだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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