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「斜め45度」の視点

2018年4月24日

第281回「京都の乱」──マンション陣営がホテル陣営に敗北

 不動産経済研究所が発表した『近畿圏のマンション市場動向2017年(年間のまとめ)』に、例年とは大きく異なる傾向が現れた。これを「京都の乱」と名付けることにしたい。

 まず近畿圏の3大都市、すなわち「京都市・大阪市・神戸市」について、2013年から2017年までの「分譲マンションの平均坪単価」を表にまとめた。


 2013年から2016年までは、1位・京都市、2位・大阪市、3位・神戸市というのが「不動の順番」だった。しかし、2017年には異変が発生。京都市は3位に転落してしまった。

 前年比で大阪市は平均坪単価が16万円、神戸市は11万円アップした。それに対して、京都市は逆に何と39万円もダウンしたのである。

 次に、京都市における発売戸数・価格・平均坪単価の経緯を、表にまとめた。


 最近5年間を見ると、発売戸数は2015年の2317戸がピークだったのに、2017年は実に1220戸(ピーク値の53%)まで落ち込んだ。

 また価格は2016年の5296万円、平均坪単価も同じく2016年の250万円がピークだったのに、2017年にはそれぞれ、4378万円(ピーク値の83%)、211万円(ピーク値の84%)にダウンした。

 「京都の乱」の原因は、はっきりしている。分譲マンション陣営がホテル陣営に敗北したのである。

 (1)京都を訪れる観光客が増加した。

 (2)ホテル不足の深刻化。最近の客室稼働率は94%を超え、ゆとりがない状態に陥った。

 (3)その結果、ホテルとマンションで、建設用地の取り合いになった。

 (4)都心の中京区や下京区などでは、路線価が20%も高騰した。

 (5)ホテルの方が利益率が高いため、用地の取り合い合戦でマンションが敗北した。

 (6)特に利便性が高い「田の字」地区では、マンション建設計画が絶滅状態になった。

 「田の字」地区とは、下の図に示すように、周辺を河原町通、五条通、堀川通、御池通に囲まれた地域のこと。商業施設や公共施設が集中し、神社や仏閣などの観光名所にもアクセスしやすい立地である。


 中央を南北に走る烏丸通、東西に走る四条通を加えると、漢字の「田の字」に見えるため名付けられた。行政区でいうと中京区と下京区に属している。

 その結果、マンションの建設用地は、都心を離れた右京区・伏見区・山科区などの周辺部に求めざるを得ない状態に陥っている。

 京都市におけるホテル開発動向については、みずほ信託銀行が発行する『不動産マーケットレポート』(2017年12月号)に、分かりやすい表が掲載されている。
<http://www.tmri.co.jp/report_market/pdf/market_report1712.pdf>

 それによると、2018年3月~2020年6月の期間に、実に19ホテル(4702室)が開業する計画になっている。

 なお、京都・滋賀の建設情報をカバーする日刊『建設経済新聞』のウェブ版、「KJCねっと」を利用すれば、より詳しい情報を入手できる。

 そのトップページの検索覧に「ホテル」と入力すると、「こんなにあるのか」と驚くほどの開発計画が目に入ってくる。<http://www.kjc-news.co.jp>

 「京都の乱」は今後、どんな影響を及ばすのだろうか。私には1点だけ思い至ることがある。今年の7月末頃に、東京カンテイから「2017年新築マンション価格の年収倍率」に関するデータが発表される。

 年収倍率=「70平米のマンション価格」÷「平均年収」

 下の表を見ていただきたい。


 2013年から2016年までは、京都府は必ず1位~3位に入っていた。しかし、2017年には1位~3位から外れて、代わりに大阪府が3位に入ると思われる。

 大阪府の年収倍率が大きくなるのは、高額なマンションの供給が増えたため。逆に、京都府の年収倍率が小さくなるのは、高額なマンションの供給が減ったため。

 高額なマンションの供給が減るのは、普通は都市のパワーが衰えた場合である。しかしながら、京都市は都市的なパワーが旺盛であるにもかかわらず、高額なマンションの供給が一気に落ち込むという珍しいケースになった。

 なお「京都の乱」という記事のタイトルは、2016年から2018年にかけて50万部近いベストセラーになっている、呉座勇一著『応仁の乱』(中公新書)からの連想である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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