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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年12月15日

第365回 三井不動産の「月夜のキッチン」vs三菱地所の「走る専門店」

 新型コロナウイルスの出現は、私たちの暮らしを大きく変化させました。コロナに感染するリスクを減らすために、人々がマンション内で過ごす時間が一気に増加してしまったのです。

 そういう中で活躍したのが、三井不動産グループの「月夜のキッチン」であり、三菱地所グループの「走る専門店」でした。

 このうち「月夜のキッチン」は、三井不動産レジデンシャルと三井不動産レジデンシャルサービスが、2019年7月から本格展開している取り組みです。

 平日の17時〜20時に、三井不動産レジデンシャルサービスが管理するマンションの空地にキッチンカーを走らせて、共働き世帯が負担と感じる「料理」を提供(販売)するという内容です。

 17時〜20時頃には夜空に「お月様」が輝いています。それゆえに、「月夜のキッチン」・・・。記憶に残るネーミングですね。

 一方の「走る専門店」は、国内最大級のフードトラック・プラットフォームを展開する「Mellow(メロウ)社」、および「三菱地所」、「三菱地所コミュニティ」の3社が、2020年10月に開始した、マンション居住者向けの新ショッピングサービスです。

 三菱地所コミュニティが管理する、マンションの敷地内に「専用の停留所(SHOP STOP)」を設置。そこに「走る専門店」、すなわち「フードトラック(食料車)」や「移動・物販車」が日替わりで訪れる仕組みになっています。


 三菱地所の「走る専門店(フードトラック)」で食料品を購入する家族

【■■】三井不動産グループの「月夜のキッチン」

 ◆「月夜のキッチン」の背景

 首都圏の新築マンション契約者を分析すると、2018年に既婚世帯の共働き世帯率が過去最高の66%になるなど、マンション居住者の暮らしは大きく変化しています。

 それを受けて、三井不動産レジデンシャルと三井不動産レジデンシャルサービスは、「共働き女性社員によるプロジェクトチーム」を立ち上げました。

 まず共働き世帯の課題を抽出して、「分譲マンションデベロッパーとして提供すべきサービス」を検討。その結果、家事の中でも「料理」に対する負担が最も大きいことに着目しました。

 さらに、日本惣菜協会「2018年版惣菜白書」をチェックして、中食(家庭外で調理された食品を、購入あるいは配達などによって、家庭内で食べる食事の形態)に対する需要が高まっていることを確認しました。

 以上を総合して、「手作り料理を即座に提供できるキッチンカーを、マンションの空地部分に誘致することで、満足度の高い食事を提供できる」「その結果、居住者の料理に対する家事負担を減らすことができるのではないか」と判断したのです。

 ◆「月夜のキッチン」の実施内容

 実施に向けては、居住者の通行の妨げにならない位置で、キッチンカーの出店を検討。また、日々の夕食として「許容できる価格帯でメニューを提供できること」が重要と考え、約2ヵ月のトライアル後に、「居住者アンケートを実施」。メニューおよび価格設定を確認した上で、本格展開を開始しました。

 さらに、稼働後も売上報告をもとにエリアの特徴を分析して、「3ヵ月毎に出店スケジュールを組む」ことによって、飽きられないメニュー設定を実現できました。

 その結果、定期的な利用者が増え、出店者は安定した収益を得ている状態です。

【■■】「月夜のキッチン」に2020年度グッドデザイン賞

 共働き世帯への食支援活動「月夜のキッチン」は、2020年度グッドデザイン賞を受賞しました。

 ◆グッドデザイン賞審査委員の評価

 共働き世帯の家事負担の軽減に取り組むべく、オフィス街のランチタイムではおなじみのキッチンカーを夕食時にマンション空地に誘致して、近隣住民も利用できる仕組みを実現した。

 運営管理はマンションの管理会社に委託して、売り上げの一部を運営資金とすることで、「持続可能なビジネスモデル」としている点も優れている。

 キッチンカーの出店者側にはランチ時を上回る収益をもたらすなど、キッチンカー業界の常識を覆した市場開拓としても注目に値する。

 新型コロナの影響による需要もあるが、それに留まらないで住民の支持は厚く、導入先も増えつつある。住環境に携わる立場からなされた、住民の日常に寄り添う取り組みに、評価が集まった。

【■■】三菱地所グループの「走る専門店」

 新型コロナウイルスの出現は、私たちの暮らしを大きく変化させました。コロナに感染するリスクを減らすために、人々が自宅で過ごす時間は増加しています。

 そういう中で2020年10月1日、「Mellow(メロウ)」、「三菱地所」、「三菱地所コミュニティ」の3社が、マンション居住者向けの新ショッピングサービス、「SHOP STOP(ショップ・ストップ)」を開始しました。

 そのキャッチフレーズは、「走る専門店」が毎日おうちにやってくる・・・。以下、詳しく説明していくことにしましょう。

 まず、「SHOP STOP」とは、メロウ社が運営する「走る専門店の停留所」、という意味です。

 この「SHOP STOP」を、三菱地所コミュニティが管理する、マンションの敷地内に設置。そこに「走る専門店」、すなわち「フードトラック(食料車)」や「移動・物販車」が日替わりで訪れる仕組みです。

 このサービスの導入によって、マンション住民は外部に出かけることなく、「フードトラック」や「移動・物販車」でのショッピングが可能になりました。

【■■】居住者の満足度は「100点満点で86点」

 メロウ、三菱地所、三菱地所コミュニティの3社は、都市部におけるマンション住民の「家庭での食事需要の増大」に対応するため、2020年4月に、「フードトラック」による飲食販売をテスト導入しました。

 その対象になったのは、三菱地所コミュニティが管理する、東京都内に建っているマンション5物件です。そして8月までに、「走る専門店」62店の合計で、約2万4000食を販売することができました。

 テスト導入したマンション5物件では、「フードトラックによる飲食販売」に対する、「居住者満足度調査(回答者400名)」を行なっています。

 その結果、「満足度平均」は5点満点中、4.3点でした。100点満点では86点ということになるので、ずいぶん高く評価していることが分かります。

 以下のようなコメントも寄せられています。

「忙しい時に、すぐご飯が買えて助かった」
「家では作らない料理だった」
「気分転換にもなった」


 「走る八百屋さん」から、青果(野菜と果物)を下ろして、販売しているところ

 ◆「豊洲市場仲卸の鮮魚」、「青果(野菜と果物)」

 新たなラインナップとして、「豊洲市場仲卸の鮮魚」、「青果(野菜と果物)」などの専門店も出店を始めています。

 これら専門店の「移動物販車両」には、「魚、野菜、果物」が品揃えされています。また、「目利きの店主」から話を聞くことができる、「ストーリーとの出会い」も待っています。そのためマンション居住者に、大変喜ばれているそうです。

 今後は、ベーカリー、生花店、フレグランスショップ(香水、オーデコロン、石鹸、ボディーパウダー、室内香料などの芳香性製品)などの専門店も、ラインナップに加わる予定です。

 「SHOP STOP(ショップ・ストップ)」の対象になっているのは、現時点では、三菱地所コミュニティが管理する東京都内に建つマンション5物件に限られています。

 しかし今後は、対象になるマンションを増やしていく予定なそうです。


 「走るフラワーショップ」から、色々な花を下ろして、販売しているところ

 ◆メロウ社が運営する「SHOP STOP」の全体像

 最後に「Mellow(メロウ)社」が運営している「SHOP STOP」の全体像をまとめておきましょう。

 ①フードトラックを中心とした900店と提携し、首都圏・関西・福岡エリア315箇所で展開中。
 ②月次の流通総額は1億円を超えて、拡大を続けている。
 ③フード以外には、「マッサージモビリティ」などの運営ノウハウを有している。


細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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