リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年9月24日

第10回 不況期に底力を発揮するマンション

 不動産不況になるたびに、底力を発揮するマンションがある。ひとつは、「コーポラティブマンション」である。 これは、ユーザーが集まって建設組合を結成。共同で土地を購入し、建物を建て、管理していく集合住宅だ。 組合の結成から入居まで平均して2年ぐらいの時間がかかる。コーポラティブマンションの建設に際しては、 プロデュース会社の全面的なサポートを得るケースが多い。

 もうひとつが、住戸内部を購入者の希望通りに造り込んでいく、「自由設計マンション」である。この場合、 購入者は、住戸を選定し契約が終わった後に、担当の建築士と打ち合わせて設計を進めていく。自分の要望を伝え、 間取りを決め、設備や仕上げを選定し、見積もりを確認するまでに、合計で4~7回、期間的には3ヵ月程度かかる。

 コーポラティブマンションおよび自由設計マンションに共通する長所は、入居者や購入者の満足度が 極めて高くなることだ。その反面では、プロデュース会社やマンション分譲会社にとって、多大な 手間暇がかかるという短所もある。

 そのため、景気が良くて、不動産各社が「猫の手借りたい状態」のときには、あまり顧みられることがない。 しかしながら、不況になって人手にゆとりができると、顧客満足度が高いという事実が評価され、にわかに 底力を発揮し始めるのだ。

 コーポラティブマンションが第1次ブームを迎えた1977年には、建設戸数は778戸に達した。第2次ブームの 2003年には、建設戸数は592戸だった。現在は、盛り返しているのは事実だが、ブームと呼べるような状態には 至っていない。それは、重要なプレーヤーが、経営破綻により市場から退場してしまったからだ。

<首都圏の主なプロデュース会社の建設実績(2003年)>
 ■都市デザインシステム 9棟、155戸
 ■NPO都市住宅とまちづくり研究会 4棟、63戸
 ■アーキネット 4棟、19戸
 (資料、全国コープ住宅フォーラム2004)

 首都圏で最大手だった都市デザインシステムは2008年8月、約204億円の負債を抱えて経営破綻した。 同社は1992年の設立で、コーポラティブマンションのプロデュース事業で実績を上げてきた。しかし、 その後、賃貸マンションやホテルなど自社開発事業の比率を高め、それが破綻の原因になった。 仮に、都市デザインシステムが、プロデュース事業に専念していれば、コーポラティブマンションは 今ごろ第3次ブームを迎えていた可能性が高い。

 現在、先頭に立つのは、アーキネット(東京・渋谷、織山和久代表)である。同社は、1995年の設立以来、 戸数で6~8戸、階数で3階程度の小規模な集合住宅を、年に数棟ペースでつくり続けてきた。しかし、 現在は募集中のプロジェクトが10件を超える勢いで、累計では59棟に達した。

 一方、自由設計マンションに関しては、きちんとした統計データが見当たらない。 そのため、実感ベースでしかないが、2003年以降に6棟101戸の実績を持つ三菱地所の 「スタイルハウス」シリーズが、先頭に立つと推定される。

 筆者は、顧客満足度が高い、コーポラティブマンションおよび自由設計マンションの一貫した 「支持者」である。今後、取り組む事業者がもっと増えてほしい、と希望する。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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