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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年8月24日

第21回「長い英語」の名前を持つマンション

 三井不動産レジデンシャルなど4社が、東京都港区六本木3丁目に建設中の 高級分譲マンション、「THE ROPPONGI TOKYO CLUB RESIDENCE」は、今どき珍しい「長い英語」の名前を持っている。

 ただし、長い英語の名前だと、特に縦書きの新聞に記事を書くとき、どうも具合が悪い。最近の新聞は、1行が11字~13字程度であることが多い。中間を取って、1行が12字だとすると、次のようになる。

□□□□□□□□□□□□
THE ROPPONGI
TOKYO CLUB R
ESIDENCE
□□□□□□□□□□□□
THE ROPPONGI
TOKYO CLUB
RESIDENCE
□□□□□□□□□□□□

 上段だと、RESIDENCEが途中で切れている。下段だと、CLUBの後に2文字分の空白が生じている。記事を書く立場からすると、どちらを選んでも、見栄えが悪くて泣けてくる。

 このマンションの居住者は、手紙を出すとき、名前をどのように縮めるのだろう。「ROPPONGI TOKYO?」、「ROPPONGI RESIDENCE?」。縮め方が分からないため、おそらく、名前を書かない人が多いのではないか。

 また、タクシーでこのマンションを目指すとき、目的地をどう告げればいいのだろう。フルネームだと、発音している最中に舌を噛んでしまいそうだし、長くて分かりにくいので、運転手に「何ですか?」と聞き返されそうな気がする。結局、「六本木3丁目の超高層マンション」と、説明することになるのだろう。

 ところで、名前が長くなってしまった一因は、「CLUB RESIDENCE」というコンセプトを伝えたかったからである。「クラブ・レジデンス」とは、入居者をクラブメンバーに見立て、無料もしくは有料で特別なサービスを提供する高級マンションをいう。

 サービスは3本立て。第1に、専門スタッフが、バレーパーキング、ポーターサービス、ルームサービス、ハウスキーピングなど、24時間対応のホテルライクなサービスを行う。次に、一流のプロと提携して、フラワーアレンジメント、スパ&ネイル、スタイリスト&メイク、フードコーディネート、ブックセレクトなどのサービスを住戸内部で提供する。さらに、ディナークルーズ、ナイトヘリ、コンサートのチケット手配など、住宅外部での要望にも対応する。

 サービスアパートメントや高級賃貸マンションでは、既にホテルライクな手厚いサービスが提供されている。「クラブ・レジデンス」はその発展系になる。

 このマンションの第1期販売(92戸)の登録受付は7月17日から3日間行われ、平均坪単価が約550万円という高額であるにもかかわらず、9割超の83戸に申込があった。特に最上層39階にある7戸のプレミアム住戸(専有面積約160~180平方メートル、価格2億6千8百万~4億8千万円)にはすべて申込があった。

 これは、「クラブ・レジデンス」というコンセプトが受け入れられたからであろう。となると、今後、「THE □□□□□□ TOKYO CLUB RESIDENCE」という、物書き泣かせの名前を持つマンションが増えていく?

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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