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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年1月30日

第272回マンション管理人とコンシェルジュの人手不足が深刻化

 分譲マンションの快適さは、マンション管理人やコンシェルジュによって、支えられている面がある。しかし日本は今、深刻な人手不足に悩んでいる。幼稚園・保育園、高齢者施設、外食チェーン、宅配業界、建設業界──。多くの業界から悲鳴が聞こえる。

 マンション管理会社は今後、マンション管理人やコンシェルジュを、きちんと確保できるのだろうか。

 この問題の背景を理解するため、まず良書として定評がある、三村正夫著「マンション管理人の仕事とルールがよくわかる本」(2017年1月、セルバ出版)を読んでみた。三村氏は石川県マンション管理士会の代表理事で、北陸では初めてマンション管理士養成講座をスタートし、約300名の卒業生を育成した人だ。

 三村氏はマンション管理人の仕事には次のような傾向があるという。

 (1)60歳前後の人の再就職の仕事としては、様々な職業の中では最適である。

 (2)体力的に負担がないため70歳過ぎまで働くことが可能。

 (3)人生経験が豊かな人ほど、今までの経験を生かすことができる。

 (4)資格・経験にとらわれず、誰でもできる。

 また首都圏や関西圏のマンション管理人の賃金相場は、月当たり13万円~18万円くらいと指摘する。したがって経済的には、次の3タイプの人が対象になり得る。

 (1)年金がまだもらえない、または年金だけでは苦しいのでいくらかの糧にしたい。

 (2)年金だけで生活できるが、もう少しゆとりを増やしたい。

 (3)定年後は社会に貢献できる仕事をしたい。

 これを要約すると、「マンション管理人は、60歳前後の人が再就職するとき、検討してもいい仕事の1つ」ということになる。

 しかし、東洋経済オンラインに2017年5月、衝撃的な記事が掲載された。そのタイトルは「マンション管理人の人手不足がヤバすぎる、時給3割増でも集まらない」(下図は同オンラインから引用)。

 同誌の筑紫祐二記者は、次のように指摘した。

 (1)都心5区の管理人の時給は、数年前は1000円以下だったのに、今や1200~1300円。ある管理会社はそれでも、物件に必要な管理人が常に15%程度不足している。

 (2)企業の定年延長、再雇用の動きが顕著となり、応募者の数自体が減っている。そのため管理人の定年を65歳から70歳に引き上げたが、これは一時的なカンフル剤にすぎない。

 (3)最近では、管理人は高齢者をサポートし、命を守る役割まで担うようになっている。人が集まらないのは、責任は重いのに待遇は良くないという側面もある。

 この記事は、マンション管理人を確保する「仕組み」そのものが崩れようとしている、と激しい警鐘を鳴らしたのである。

 これは管理員(管理人)のイメージである(大京グループのNewsRelease「マンション向けAI管理員・コンシェルジュサービスの実証実験を開始」から引用)。

 図に描かれているように、管理人の皆さんは、60歳以上の人が良さそうな方が多い。

 念のために、ハローワークの求人情報で、「職種─マンション管理人」「勤務地域─東京都」と入力して調べてみた。

 (A)勤務地─東京都台東区、中央区

 マンション管理人─時給958円

 内容─ゴミ出し、館内清掃等

 (B)勤務地─東京都世田谷区 

 マンション管理人兼清掃─時給1100円

 内容─日常清掃 

 (C)勤務地─東京都渋谷区 

 マンション管理人─月給15万円

 内容─11階建て約80世帯。受付業務、ゴミ出し、日常清掃 

 (D)勤務地─東京都小金井市

 マンション管理人(住み込み)─月給21万6000円

 内容─高齢者対応(見守り・調理・配膳)、共用部の清掃 

 このうち(A)~(B)は、「マンション管理人」というより「清掃員」に近い。驚くのは(D)である。月給21万6000円と金額は少し高いが、住み込みで高齢者を見守り、調理・配膳するというのだから、「マンション管理人」というより「高齢者施設の介護人、料理人」に近い。

 尻込みしたくなるような実情である。

 こういった管理人やコンシェルジュ不足に対応するため、マンションデベロッパーやマンション管理会社は、AI技術の導入に取り組み始めた。

 まず2017年7月に、大京アステージ、穴吹コミュニティ、ファミリーネット・ジャパン(東京電力グループ)の3社は、マンション管理員やコンシェルジュをサポートする「AI管理員、AIコンシェルジュ」サービスの実証実験を開始した。

 これは、管理員やコンシェルジュが不在のとき、またはコンシェルジュを導入していない物件で、居住者や管理組合の問い合わせに音声対話型サービスで対応するというもの。

 図はコンシェルジュのイメージである。(大京グループのNewsReleaseから引用)。確かにコンシェルジュの皆さんは、ほとんどが女性である。

 続いて2017年11月に、大和ハウス工業、大和ライフネクスト、ファミリーネット・ジャパン(東京電力グループ)の3社は、無人コンシェルジュサービス「ヒューマンシェルジュ・ダイレクト」を導入すると発表した。

 各住戸に設置された「宅内インターホン」の専用ボタンを押すと、分譲マンションと別の場所にある「コンシェルジュデスク」に繋がり、通話ができるシステムである。

 こういったAI技術が普及すれば、確かにマンション管理会社は管理人やコンシェルジュの効率的な配置が可能になるので、評価できる取り組みである。

 ただし、それだけでは、絶対的な人手不足を解消することはできない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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