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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年8月7日

第291回超スマート社会「Society5.0」における不動産テックの役割

 不動産業界では、「AI」(人工知能──人間の知的営みをコンピュータに行わせるための技術)や、「ビッグデータ」(不動産事業に役立つ知見を導くためのデータ)を活用した、「不動産テック」(Real Estate Tech)と呼ばれる分野が活発化している。

 このような動きは、不動産業界だけではなく建設、自動車、機械、エネルギー、物流、金融、医療・・・など、多くの業界に広がっている。

 政府は2016年1月、「科学技術基本法」に基づいて、「第5期・科学技術基本計画(2016年度〜2020年度)」を閣議決定。わが国が目指すべき未来社会の姿として、超スマート社会「Society5.0(ソサエティー5.0)」を提唱した(下の図)。

(画像はウェブサイト「政府広報──Society5.0」から引用)

 この図によれば、狩猟社会「Society1.0」、農耕社会「Society2.0」、工業社会「Society3.0」、情報社会「Society4.0」に続く5番目が、超スマート社会「Society5.0」という位置づけになる。

 それでは、情報社会「Society4.0」と超スマート社会「Society5.0」は、どのように異なるのだろう(下の図)。

(画像はウェブサイト「政府広報──Society5.0」から引用)

 これまでの情報社会「Society4.0」では、フィジカル空間(現実空間)で活動する人間が、インターネットを経由して、サイバー空間(仮想空間)にあるクラウドサービス(サーバー、データベース、ネットワーク、ソフトウェア等)にアクセス。そこで情報やデータを入手し、活用してきた。

 それに対して超スマート社会「Society5.0」では、フィジカル空間(現実空間)から送られた膨大な情報(ビッグデータ)を、サイバー空間(仮想空間)に集積して、人工知能(AI)で解析。その解析結果(高付加価値な情報、提案、機器への指示)を、フィジカル空間(現実空間)にいる、自動車や人間やロボットが活用するという仕組みになる。

 すなわち、「Society4.0」では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきた。しかし「Society5.0」では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、かつ自動車や人間やロボットなど「適切な相手」にフィードバックすることで、従来はなかった新たな価値が産業や社会にもたらされるのである。

 政府が提唱した超スマート社会「Society5.0」を受ける形で、国土交通省も2017年3月29日に「第4期国土交通省技術基本計画」を決定。「人を主役としたIoT、AI、ビッグデータの活用」を基本的な指針とした(下の図)。

(画像は「第4期国土交通省技術基本計画」から引用)

 このうち「IoT」とは、「Internet of Things(物のインターネット)」の略。

 従来インターネットに接続されていなかった様々な物、すなわち「センサー機器、駆動装置(アクチュエーター)、建物、車、電子機器など」が、ネットワークを通じてクラウドサービス(サーバー、データベース、ネットワーク、ソフトウェア等)に接続され、相互に情報交換をする仕組みをいう。

 さて、国交省は上記の「第4期国土交通省技術基本計画」をまとめるために、外部の有識者を招いて数多くの会議を開催した。会議にはいろいろな資料が提出されたのだが、不動産関係者にとって最も価値の高い資料は、野村総合研究所・コンサルティング事業本部・上級研究員の谷山智彦氏が提出した、「不動産テックの潮流」と題する論文であると思われる。

 この資料は、2016年2月に開催された「第25回国土審議会土地政策分科会企画部会」に提出された(http://www.mlit.go.jp/common/001120134.pdf)。

 谷山氏の論文「不動産テックの潮流」から、複数の図を引用する。まず「不動産×テクノロジー=不動産テック」である(下の図)。


 この図には、「ビッグデータやテクノロジーを活用することで、従来の不動産サービスの付加価値や生産性を飛躍的に高める可能性を持つ、新しいサービスやビジネスモデルが登場しつつある」という説明が付いている。

 次に「不動産テックの創業年の分布」および「不動産テックの社員数の分布」である(下の図)。


 この図には、「不動産テックの過半数は2011年以降に創業しており、従業員も50人以下が大多数」という説明が付いている。

 谷山氏は次のように解説している。

 「不動産テックは、米国、英国、カナダの順に多く存在している。ベンチャー企業の分析とデータを提供するベンチャー・スキャナー社によれば、2016年1月末時点において、不動産テックは680社、45ヶ国に存在する」

 「不動産テックへのベンチャー投資は、米国を中心として活発に行われているが、金額ベースで見ると中国、インド、シンガポールの存在感が大きい」

 「不動産テックの潮流は、もはやカリフォルニアやニューヨークだけの話ではなく、アジア地域も含めたグローバルなトレンドになりつつある」

 次に「米国における不動産市場プレイヤーの全体像」である(下の図)。


 この図には「オープンデータの整備やテクノロジーの進歩を背景として、無数の新規サービスが登場」という説明が付いている。

 次に、CB・Insightsがまとめた「不動産テックの全体像」である(下の図)。


 この図には「不動産のリスティング・検索サービス、物件仲介・管理等に留まらず、 データ分析プラットフォーム、マーケティング支援、クラウドファンディングなど多岐にわたる」という説明が付いている。

 続いて、ベンチャー・スキャナー社がまとめた「不動産テックの全体像」である(下の図)。


 この図には「不動産マネジメントの高度化だけではなく、住宅関連の新しいサービスも包含されている」という説明が付いている。

 さて、本コラムの273回で次のような記事を掲載した。

【「不動産テック」の最新トレンド──「AI推定価格」をユーザーも支持】

 記事には、リマールエステート(赤木正幸社長、東京都中央区)が、2017年7月に公表した「わが国における、不動産テックカオスマップ7月版」を添付した(下の図)。

(作成者はリマールエステート社、QUANTUM社、川戸温志氏)

 この図を、谷山氏の論文に掲載された図と比較すると、「日本流・不動産テック」の特徴が浮かび上がってくるようで興味深い。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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