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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年9月18日

第296回 リクルートの「世界的活動」「実践的なAI活用]「SUUMO売上高」に注目

 日経BP社の有料ウェブサイト『日経クロストレンド』に先頃、「リクルートの実戦的AI(人工知能)活用法」と題する連載記事(全4回)が掲載された。

 第1回「AI活用が実験に終わらず、実用レベルで定着している理由」

 第2回「動画検索ディープラーニングの活用」

 第3回「AI開発がスピーディーに進む背景」

 第4回「校閲AIが驚異的な効果、検出率は人を超え数秒で完了」

 私が特に注目したのは、第4回の「校閲AI」。リクルートはマンション情報誌の『SUUMO』を初めとして、求人情報誌、結婚式情報誌などを発行している。そこに掲載する文章が間違っていると困るので、専門の担当者が文章の誤りや不備な点を調べて検討し、訂正したり校正したりする、「校閲」と呼ばれる作業を行う必要がある。

 しかしリクルートが校閲作業にAIを活用した結果、「従来は1週間ぐらいかかっていた作業が、数秒でできるようになった」。そのため、校閲スタッフの人数は大幅に削減されたという。

 この記事を読んだ後、企業としてのリクルート像、および同社のAI活用法に興味が湧いてきた。よって「2017年・アニュアルレポート(年次報告書)」に目を通すことにした。

 まず会社の規模である(下の図はリクルート「2017年アニュアルレポート」から引用)。

 グループ全体の従業員数は実に4万5000人超である。これほど大きな会社に成長しているとは知らなかった。それに加えて、新規事業エントリー数は年間で約700件もある。新しい試みに熱心なことが分かる。

 次に事業の内容である(下の図)。

 大きく上段の「ピンク色」、中段の「緑色」、下段の「黄色」という、3つのゾーンに分かれている。

 上段の「ピンク色」ゾーンにあるHRテクノロジーとは、「Human Resource Technology」の略。このうち「Human Resources」は日本語では「人事」を意味する。

 

 すなわちHRテクノロジーとは、求人・採用・配置・育成・評価・報酬・労務・組織マネージメントなど、「社員」や「人事」に関わる全ての施策や業務を、テクノロジーを使って効率化し精密化する技術をいう。

 そして、リクルートの子会社である『Indeed』は、HRテクノロジーを使った世界No.1の求人検索サイトを運営し、世界の60か国以上で28言語を使ったサービスを提供している。 

 中段の「緑色」ゾーンにある「メディア&ソリューション」とは、企業がユーザーに向けて行う販促活動をサポートする業務を意味している。

 住宅なら『SUUMO』、結婚なら『ゼクシィ』、旅行なら『じゃらん』、飲食なら『ホットペッパーグルメ』、美容なら『ホットペッパービューティー』、人材募集なら女性向けの『とらばーゆ』ほか多数のメディアがある。

 下段の「黄色」ゾーンにある「人材派遣」は、リクルートの子会社である『リクルートスタッフィング』が担当する。

 続いて、不動産関係者にはおなじみの『SUUMO』の説明図を見よう(下の図)。

 住宅を探すユーザー(図の左側)と住宅・不動産会社(図の右側)を、『SUUMO』(図の中央)が広告でつなぐモデルになっている。

 

 次に、『SUUMO』を運営する「住まいカンパニー」の売上高推移を見よう(下の図)。

 上の図には示されていないが、2018年3月期の売上高は981億円だった。これは2017年3月期の995億円と比較すると1.4%減になる。一見すると、住まいカンパニーが縮小期を迎えたかのように感じる。

 ただし、リクルートの「2018年3月期・決算短信」によれば、その主な原因は「子会社譲渡により売上収益が減少するという一時的な要因」などとされる。そしてこの一時的な要因を除去すれば、前年同期比では4.8%増になるという。

 続いてリクルート住まいカンパニーと、『LIFULL HOME'S』を運営するライフル社の比較である(下の図)。

 リクルートの995億円に対して、ライフル社は299億円と大差である。

 それなのに、わざわざ売上高を比較しているのは、「ライフル社の実力はこんなものですよと、さりげなくアピールしたかったためではないか」、という気もしてくる。

 説明が後回しになったが、「2017年・アニュアルレポート(年次報告書)」には、米国のシリコンバレーにあるリクルート人工知能研究所のAlon Halevy(アロン・ハレヴィ)CEOへのインタビューも掲載されている。

 記事のタイトルは「リクルートのビジネスに、未来の可能性を見い出すテクノロジー」。

 アロン・ハレヴィ氏は次のように話している。「人工知能研究所は、常に『リクルートのサービスは5年先にどうなっているか?』を自問自答し研究を進めています。テクノロジーのトレンド、人々とリクルートの関わり方、そしてクライアントに対してのサービスはどうなっていくのかを見据え、実務的かつ革新的であるべきだと考えます」。 

 この記事には研究チームの写真が添付されている。

 写真のサイズが小さくて分かりにくいかもしれないが、チームの面々を見るとリクルート社ならではの「ダイバーシティの精神」が伝わってくる。

 「ダイバーシティとは、多様な人材を積極的に活用しようという考え方のこと。もとは、社会的マイノリティの就業機会拡大を意図して使われることが多かったが、現在は性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで生産性を高めようとするマネジメントについていう」(コトバンク)。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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