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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年4月18日

第245回首都圏新築マンション価格の年収倍率は、本当に10倍を超えているのか?

 不動産情報サービスの東京カンテイは毎年、「新築マンション価格の都道府県別年収倍率」を公表する。これはまず、新築マンションの平均坪単価を、専有面積70平方メートルの住戸価格に換算。次に、その住戸価格を各地域の平均年収で割って、年収の何倍になるかを計算した結果である。

 現時点で入手できる最新データは、2016年7月に公表された、「2015年新築マンション価格の都道府県別年収倍率」である。ランキングのうち、首都圏のデータを紹介する(順位は全国順位)。

 1位 神奈川県──年収倍率11.70倍

    70平方メートル換算価格5886万円、平均年収503万円

 2位 東京都──年収倍率11.30倍

    70平方メートル換算価格7086万円、平均年収627万円

 4位 千葉県──年収倍率10.43倍

    70平方メートル換算価格4727万円、平均年収453万円

 5位 埼玉県──年収倍率10.33倍

    70平方メートル換算価格4764万円、平均年収461万円

 参考 首都圏全体──年収倍率10.99倍

    70平方メートル換算価格5616万円、平均年収511万円

 

 ここで疑問を1つ呈したい。「首都圏新築マンション価格の年収倍率は、本当に10倍を超えているのか?」。首都圏全体では年収倍率10.99倍なので、10倍を超えているように見えるのだが、「それは本当だろうか」と問題提起しているのである。

 問題提起の根拠になるのは、リクルート住まいカンパニーの「首都圏新築マンション契約者動向調査」(調査数4065人)に掲載された数字である。

 この表を見ると、マンション購入者の世帯年収は「600~800万円未満」が最も多く24.8%を占めている。以下「800~1000万円未満」、「400~600万円未満」、「1200万円以上」などと続く。そして平均年収は872万円に達している。

 次に、マンションの購入価格を見ると、6000万円以上が最も多く21.4%を占めている。以下「5000~6000万円未満」、「4500~5000万円未満」などと続く。そして平均購入価格は4975万円にとどまっている。

 2015年の契約者全体では、平均購入価格は4975万円、購入者の平均年収は872万円なので、新築マンション価格の年収倍率は次のようになる。

 新築マンション価格の年収倍率=4975万円÷872万円=5.7

 東京カンテイのデータと、リクルート住まいカンパニーのデータを、比較しやすいように表形式にまとめた。

 表に示したように、東京カンテイでは70平方メートル換算価格を使うのに対して、リクルートでは平均購入価格を使う。また、東京カンテイでは住民の平均年収を使うのに対して、リクルートでは購入者の平均年収を使う。このため、東京カンテイの年収倍率は10.99倍と高くなったのに、リクルートの年収倍率は5.7倍と約半分近くになった。

 私はマンション市場で実際に購入したユーザーの数字を反映した、リクルートの年収倍率の方が説得力があると感じるのだが、読者の皆さんはいかがだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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