私は仕事柄、リクルートの雑誌『ＳＵＵＭＯ新築マンション』を時々利用する。ただしネット「ＳＵＵＭＯ」はほとんど利用しない。

　その理由は、私のパソコン画面に突然顔を出す、「ＳＵＵＭＯ」の「ゴール不在広告」によって、気持ちが乱されるからである。掲載した図は、ヤフーのトップページからスクリーンキャプチャーした。

　私は取材の下準備のために、ネットを使って、新築マンションの最新情報を定期的にチェックする。その行動パターンがウェブサイトの運営者によって収集され分析された結果、日経新聞、読売新聞、朝日新聞、ヤフーのニュース欄など、どのウェブサイトを訪れても、必ずパソコン画面に新築マンションの物件広告が顔を出す。

　マンションの所在地も東京、横浜、大阪、神戸、京都、名古屋、盛岡など全国に及ぶ。盛岡というローカルな都市のマンションが現れるのは、盛岡の高校出身者として、地元紙・岩手日報のウェブサイトも見ているためと思われる。

　このように私の行動を追いかけてくる広告を、「行動ターゲティング広告」と呼ぶらしい。「（東京）ひ、広い。４ＬＤＫ。ｓｕｕｍｏ.ｊｐ」という行動ターゲティング広告は、ヤフーのトップページを訪れると画面の右側下に顔を出す。ほかにも、辞書の検索結果ページなどでも見かける。

　この広告は、少し前までは住戸の間取り図付きだった。４ＬＤＫという恵まれた間取り図が目に入ると、「住宅ジャーナリストとしてこんなにいい物件があるとは知らなかったなぁ」と、つい反射的にクリックしてしまう。エサを探して海を泳いでいる鯛が、目の前にイキのいい海老の姿を見つけたときと、似たような反応である。

　しかし、この広告をクリックし、「ＳＵＵＭＯ」を訪ねて探し回っても、該当する物件にたどりついたことは一度もない。これまで、多分５～６回はチャレンジしたと思うのだが、憧れの物件は姿を未だに見せない。ゴールが不在なのである。

　「そもそも論」でいえば、こうした広告で誘うときには、クリックした先は、「年収４００万円でも買えそうな、東京の４ＬＤＫの物件をまとめたページ」にするのが常道であろう。

　強調しておきたいのは、分譲マンションの市場に詳しい人なら誰でも直ぐに分かることだが、「年収４００万円でも買えそうな、東京の４ＬＤＫの新築物件」は、よほど不便な場所を除けば存在し得ない事実である。

　例えば、不動産情報サービスの東京カンテイが公表した、「２０１３年新築マンション価格の都道府県別年収倍率」によれば、東京都の年収倍率は９.７９倍、平均年収は６３１万円、新築マンション（専有面積７０平米）の価格は６１７４万円である。つまり「９.７９×６３１万円≒６１７４万円」となる。

　「年収４００万円の僕」の場合には、購買能力は「９.７９×４００万円＝３９１６万円」に低下する。よって、購入可能な新築マンションは価格が４０００万円未満、専有面積では「（３９１６万円÷６１７４万円）×７０平米＝４４.４平米」と計算して、４４.４平米に限られる。

　そして、価格４０００万円未満、専有面積４４.４平米だと、間取り的にはせいぜい２ＬＤＫに過ぎない。つまり、４ＬＤＫ、専有面積８０平米以上の新築マンションには、手が出せないのである。

　仮に、リクルートの広告が、「（東京）ひ、広い。４ＬＤＫ。」だけなら問題がなかった。また、「年収４００万円の僕でも買える？」だけでも問題がなかった。

　しかし、両者を組み合わせて、「（東京）ひ、広い。４ＬＤＫ。年収４００万円の僕でも買える？」とつなげたために問題が発生。分譲マンションの市場に詳しい人間から見ると、「ゴール不在の広告」に転じてしまったのである。

　この広告の影響で、何回か時間を無駄にした被害者としては、「ゴール不在の広告」は直ちに取り下げてもらいたいと思う。

　（中に続く）