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「斜め45度」の視点

2018年8月14日

第292回国交省が号令をかけ、不動産ポータルサイトが躍起になる 「おとり広告」対策

 国土交通省土地・建設産業局の不動産業課は、2016年(平成28年)11月29日、不動産に携わる各団体に対して、「おとり広告の禁止に関する注意喚起等について」と題する指示を出した。


 それを受けて2017年1月から、「首都圏不動産公正取引協議会」の「ポータルサイト適正化部会メンバー5社」(アットホーム、CHINTAI、マイナビ、LIFULL、リクルート住まいカンパニー)などが中心になって、対策を取り始めた。

 おとり広告によって厳重警告や違約金などの処分を受けた不動産事業者に対して、メンバー5社のウェブサイトで、「広告掲載1カ月以上停止」とする措置を講じたのである。

 また2017年4月過ぎには、「ヤフー不動産」「いい部屋ネット」なども、同様の措置を講じた。

 さらに、「ポータルサイト適正化部会メンバー5社」などが中心になって、首都圏や近畿圏などの主要都市で「不動産ポータルサイト広告に関する勉強会」を開催した。

 しかしながら、2017年全体としては、「おとり広告」は余り減らなかった。

 そのため不動産業課は、2017年(平成29年)11月30日に、再び「おとり広告の禁止に関する注意喚起等について」と題する指示を出した。


 国交省が2年連続で「おとり広告の禁止」を呼びかけるのは、まさに前代未聞である。本年、すなわち2018年(平成30年)11月30日には、どのようなことになるのだろうか。

 さて、おとり広告は大きく2つのタイプに分かれる(下の図)。


 まず「不動産の表示に関する公正競争規約第21条(おとり広告)」が定める3つのタイプである(図の緑色)。

 (1)物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する広告。
 (2)物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する広告。
 (3)物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する広告。

 この3つは、主に広告を出す不動産会社の責任になる。それに加えて、もう1つのタイプがある(図の紫色)。

 (4)すでに取引が終了したにもかかわらず、物件の広告がウェブサイト等にそのまま掲載され続けているケースで、これもおとり広告に該当する。

 この(4)では、不動産会社だけではなく、不動産ポータルサイトの責任も問われることになる。

 『住宅新報』2017年7月25日号に掲載された記事──「ポータルが『おとり広告包囲対応策』着々と、抑止に全力、近畿公取協で勉強会開く」、および首都圏不動産公取協ウェブサイトの「相談&違反事例」コーナーなどを参考にすると、違反広告には次のような傾向がある。

 一 違反広告のうち、上記(1)(2)(3)に相当するケースは全体の約60%程度。そのうち1〜2%が特に悪質。

 二 違反広告のうち、上記(4)に相当するケースは約40%程度。その主な原因は、物件数と成約速度に、不動産業者のメンテナンス作業が追いつかないことにある──。

 こういう特徴を持つおとり広告を徹底的に退治したい場合には、不動産テックが役に立つ。

 その中で特に注目されているのが、不動産テックベンチャーの「ターミナル社」が首都圏不動産公正取引協議会の監修協力を受けて開発した、検知ソリューション『trueper(トゥルーパー)』である。

 ターミナル社は2017年10月20日付のプレスリリースで、次のように発表した。「国内初、おとり広告検知ソリューション『trueper』の提供を開始。導入第1号は、Apaman Network(アパマン・ネットワーク)」(下の図)。

(上の図は、プレスリリースから引用)

 図の左側にあるダイダイ色エリアの装置は、ターミナル社が開発した『trueper(トゥルーパー)』のイメージである。

 中央の装置は、Apaman Network社の賃貸斡旋業務総合支援システム『AOS(Apamanshop Operation System)』のイメージである。

 右側ある青色エリアの装置は、パソコンやスマートフォンなどの「ウェブサイト画面」のイメージである。

 各装置は次のような役割を果たす。

 一 『trueper』には、ターミナル社が保有する約1000万件の不動産情報が収納されている。

 二 この『trueper』に、『AOS』から、判別対象となる物件の情報を入稿する。

 三 『trueper』は各物件を判別して、その結果を『AOS』に返却する。

 四 以上の結果をもとに、『AOS』はウェブサイトに適切な情報だけを掲載する。

 これにより、Apaman Network社の担当スタッフの業務が効率化されるだけではなく、ウェブサイトに適切な情報を掲載することが可能になる。

 なお首都圏不動産公正取引協議会もまた、年間1万件を超える調査や相談に対応するため、2017年11月30日、ターミナル社から『trueper』を導入したことを紹介しておきたい。

 さて、このおとり広告検知ソリューションに、ターミナル社はなぜ『trueper(トゥルーパー)』と名付けたのだろう。皆さん、分かりますか? 

 英語の「trooper(トゥルーパー)」という言葉には、騎兵、騎馬警官などの意味がある。そしてSF映画の『スター・ウォーズ』シリーズには、「Stormtrooper(ストームトゥルーパー)」と称する、銀河帝国軍の機動歩兵が登場した。

 この「trooper(トゥルーパー)」にヒントを得て、「おとり広告を退治するデジタル警官」という意味を込めて、『trueper(トゥルーパー)』と名付けたのではないだろうか。

 原稿をここまで書き上げた後、念のために各企業のプレスリリースを配信してくれる『@Press(アットプレス)』のウェブサイトをチェックしてみた。<https://www.atpress.ne.jp>

 「おとり広告」「おとり物件」で検索すると、LIFULL社の2018年3月28日付けプレスリリース「LIFULL HOME'S、おとり物件自動検出システムを刷新」という情報がヒットした──。

『LIFULL HOME'S』の賃貸分野で、おとり物件をはじめとする違反物件情報を自動検出するシステムの運用を開始いたしました。

 違反物件の取締り活動においては、従来から簡易型のシステムを活用していましたが、今回これを刷新し違反物件の検出を効率化しました。検出された物件については、専門部署による事実確認や是正指導を行います。

 システムの性質上、検出内容の詳細につきましては“非公開”とさせていただきます──。

 ターミナル社は『trueper(トゥルーパー)』の内容イメージを“公開”しているのに、LIFULL社は「おとり物件自動検出システム」の内容を “非公開”にしている。両者の姿勢は対照的である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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