リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年8月6日

第322回 国交省が「歩きたくなるまちなか」をコンセプトに都市再生(前編)

 国土交通省・都市局まちづくり推進課は、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」が6月下旬に提出した提言に基づいて、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」をコンセプトにした都市再生を目指す方針を明らかにした。

「居心地が良く歩きたくなるまちなか」とは何か。まず、1枚の資料を見てもらいたい(以下に添付した資料は、すべて国交省「報道発表資料」から引用)。

 <https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi05_hh_000249.html>


 この図には中央の道路をはさんで、1階をガラス張りの店舗にしたり、歩道および公園に芝生やカフェや椅子を置いた、居心地が良さそうな「まちなか(街中)」が描かれている。

■■■ なぜ、人を中心にした「まちなか」づくりが必要なのか?


 なぜ、人を中心にした「まちなか」づくりが必要なのか? それは、次のようなムーブメントを起こしたいからである。

 ⇒「まちなか」に、多様な人材・関係人口が集う、交流する、滞在する
 ⇒ 新たなつながり、コミュニティ、サードプレイスが形成される
 ⇒ 人間中心の豊かな生活が実現する
 ⇒ 新たな価値が創造され、地域課題が解決できる

「居心地が良く歩きたくなるまちなか」は、4つのキーワードをベースに計画されている。

 ◆Walkable(歩きたくなる)
   居心地が良い人中心の空間を創ると、まちに出かけたくなり、歩きたくなる。

 ◆Eye level(まちに開かれた1階)
   歩行者目線の1階部分に店舗やラボがあり、ガラス張りで中が見えると、人は歩いて楽しくなる。

 ◆Diversity(多様な人、多様な用途、多様な使い方)
   多様な人々の交流は、空間の多様な用途、使い方の共存から生まれる。

 ◆Open(開かれた空間が心地良い)
   歩道や公園に、芝生やカフェ、椅子があると、そこに居たくなる。

■■■ 国による「10の施策」


 「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を実現させるためには、どうすればよいのか。そのため懇談会は、「まちなかウォーカブル推進プログラム〜国による『10の施策』」を提唱した。

 (1)人中心のまちなかへの修復・改変(リノベーション)
 (2)まちなか空間の多様な利活用の促進
 (3)オープンイノベーションと、イノベーション・エコシステムの形成
 (4)オンリーワン都市再生の推進
 (5)官民プラットフォーム等の育成・充実
 (6)多様な資金の循環の促進

 (7)全国ネットワークの形成
 (8)老朽化・陳腐化した市街地再生の検討
 (9)芝生のチカラの活用
 (10)ウォーカブル・シティの形成

 このうち、「市町村や民間事業者」が主体となるのが(1)〜(6)、「国」が自ら取り組むのが(7)〜(10)である。

■■■ 姫路と南池袋の事例


 上の図は、「姫路駅北駅前広場」および「東京都豊島区南池袋公園」の、Before(整備前)・After(整備後)である。

 姫路では、車道中心だった駅前空間を、公共交通だけが通行するように変更。歩行者のためにゆとりの空間を生み出し、また芝生も植えた。

 南池袋公園では、利用率の低い公園を再整備。芝生を植え、「movable chair」「サンクンガーデン」「民間カフェ」などを設置して、若者から子連れの家族まで多くの人がくつろげる空間に変えた。

■■■ 丸の内と熊本と福山の事例


 これは「東京都千代田区丸の内仲通り」「熊本市桜町・花畑周辺地区」「福山市福山駅前」の3事例である。 

 このうち丸の内仲通りでは、2019年5月の10日間、車両を終日通行止めとしたのに加えて、歩道を芝生化した。来街者や沿道店舗からは極めて好評だったという。写真を見ると、皆さん、とても楽しそうにしている。 

■■■都市空間の多様な活用例


 「都市再生特別措置法」によれば、民間事業者は市町村が認定すれば、土地所有者などとの役割分担をした後に、公共空間や民有地の占用および維持管理等を行うことが可能になる。

 上記の画像は、道路に食事施設を設けたり、河川の堤防にオープンカフェを設けたりした事例である。

■■■「データ利活用型スマートシティ」のイメージ


 都市の多様なデータを収集する「データプラットフォーム」を構築して、「データ利活用型スマートシティ」を実現すれば、都市が抱える様々な課題の解決が可能になるかもしれない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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