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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年7月23日

第321回 「宙に浮いた10階建てマンション」は「免震構法の梅ランク」

 マーキュリー社の「Realnetニュース」に今年3月8日、「10階建てマンションが宙に浮いた 免震より安い新工法─日本経済新聞」というタイトルの記事が掲載された。

 それをクリックすると、「《詳細はこちら》この記事は媒体会員向けのページになります」という注記があり、さらに次のようなURLが掲載されていた。

 https://r.nikkei.com/article/DGXMZO41544570R20C19A2000000?s=2

 これをクリックすると、建築専門誌『日経アーキテクチュア』の「ちょい見せページ」になり、該当する記事が約90字だけ載っている。

 「阪神大震災を再現した揺れで、10階建て鉄筋コンクリート(RC)造の試験体がよじれるように揺れた。大きく変形しそうになったところで、取材席から向かって右側の下端部分が一瞬だけ浮...」

 続いて、お知らせが載っている。

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 ■■■基礎滑り構法とは「足元にスケートを履いたような建物」

 これを「試し読み」してみると、『日経アーキテクチュア』(2019年2月14日号)の記事、「世界最大の試験体が宙に浮く」にたどり着く。その記事を読んだ方に質問します。

 「記事の内容が理解できましたか?」。

 あなたが建築学科出身で、かつ構造系の研究室で勉強していた場合、返事は「理解できました」になるはずである。しかし、それ以外の人は、「理解できませんでした」と答えるに違いない。

 ということで、建築学科出身で、かつ構造系の研究室で勉強していた私が、この記事を分かりやすく解説してみたい。

 最初に、この実験が行われた、防災科学技術研究所の「兵庫耐震工学研究センター」が用意した図を見ていただきたい。


 図1は「基礎すべり構法」、図2は「従来工法」である。

 このうち図2「従来工法」を見ると、震動台の上に、基礎と建物試験体が載っている。そして震動台を上下左右に揺らして、建物がどのように揺れるのかを観察するのである。

 一方、図1「基礎すべり構法」を見ると、震動台の上にまず基礎コンクリートが載り、次に「鋳鉄支承」(朱色)と呼ばれる「厚さが数センチ程度、直径が数十センチ程度の鋳鉄の円板」が載り、さらに建物試験体が載っている。なお「鋳鉄の円板」と「建物」は鋲で接合されている。

 これでは少し分かりにくい。よって、「足元に余り滑らないスケート」を履いた建物が、基礎コンクリートの上に載っている姿をイメージしてほしい。

 このとき、震動台を上下左右に揺らすと、スケートを履いた「建物」は基礎の上を左右に少しだけ滑り、場合によっては宙に浮く。このように、スケートを履くことで地震の力を「受け流す」ゆえに、「従来工法」と比べて、建物に加わる力を減らすことが可能になる。

 ■■■基礎滑り構法は「梅ランクの免震構法」に相当


 次に私が描いた図を見ていただきたい。左側が「普通の構法」、中央が「基礎滑り構法」、右側が「免震構法」である。

 このうちニューフェースの「基礎滑り構法」を、従来から存在する「免震構法」と比較することにしよう。

 その結論──。「松竹梅」、すなわち松=最高ランク、竹=中間ランク、梅=最低ランクに例えるなら、「基礎滑り構法」は「梅ランクの免震構法」に相当する。

 換言すると、「基礎滑り構法」のコストは「免震構造の4分の1程度」に抑えられる反面、「適用できる建物は10階くらいが上限」とされている。

 ■■■高山峯夫教授のひとりごと

 さて、「基礎滑り構法」を「梅ランクの免震構法」に例えたのは、福岡大学工学部建築学科の高山峯夫教授である。

 高山教授は免震構造に詳しく、『耐震・制震・免震が一番わかる』(共著─技術評論社)、『免震構造 部材の基本から設計・施工まで』(共著─日本免震構造協会)などの著書がある。また「教授のひとりごと」というブログで、建築構造に関する話題をタイムリーに発信している。

 http://blog.livedoor.jp/mineot/

 今回の発言は、2019年2月21日付け同ブログ、「基礎滑り構法の実大実験」の中に記されている──。

 基礎滑り構法は、免震性能でいうと『梅』免震か(松竹梅のランク分けで)。免震構造にもいろいろな性能レベルがあるはずだし、そろそろ免震性能のランク付けというものがあってもいいのかもしれない──。

 私はかつて日本建築学会耐震設計小委員会の委員だったことがある。高山さんもその委員だった関係で、何かあると高山さんの「教授のひとりごと」を拝見し、記事を書くとき参考にさせてもらっている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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