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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年12月8日

第195回「杭施工不良」と「免震装置偽装」の影響を比較

 分譲マンションの欠陥問題を振り返るとき、これまで最悪の事件とされたのは、2005年11月に発覚した姉歯元建築士による「耐震偽装事件」だった。しかし今年は3月に東洋ゴム工業による「免震装置偽装事件」が発覚したのに続いて、10月には旭化成建材による「杭施工不良事件」が発覚するという異常な展開になった。

 一「耐震偽装事件」

 姉歯元建築士が耐震偽装した21棟730戸のマンションを、建設し販売したヒューザーが倒産。国交省が「震度5強の地震で倒壊する恐れがある」としてマンションの解体を指示したため、多くの住民が住宅ローンを抱えたまま自宅を失った。

 二「免震装置偽装事件」

 東洋ゴム工業による免震装置の偽装に巻き込まれた145棟のうち、マンションは74棟だった。今年11月時点で、公共施設やマンションなど計9棟で交換工事が始まったが、残る多くの建物では工事の見通しさえ立っていない。

 三「杭施工不良事件」

 「パークシティLaLa横浜」は総戸数704戸で、ヒューザーの21棟730戸とほぼ同規模。三井不動産レジデンシャルは今年10月31日に、全4棟の建替を基本的な枠組みとする方針を提示し、管理組合が対応策を考慮している段階である。

 ここで、旭化成建材による杭の施工不良事件と、東洋ゴム工業による免震装置の偽装事件を対象に、少し荒っぽい試算をしてみよう。 

 このうち杭工事で失敗した場合には、「補強工事は極めて困難」とされているため、建物は解体され建て替えられることが多い。これに対して、免震構造は基礎の上に免震装置を載せ、その上に柱を載せるという仕組みなので、難工事になることは間違いないが、「何とか補強工事が可能」になる。この違いが決定的な差を生み出す。

 まず東洋ゴム工業による免震装置偽装事件の影響を試算する。

 一「新築工事の費用」。建築工事費を100とすると、躯体工事費は40くらいで、免震装置費用Yは1~5程度。

 二「補強工事の費用」。補強工事の費用は10~20くらい。

 三「入居者の一時退去費用」。数カ月~1年分の費用がかかる。

 次に旭化成建材による杭施工不良事件の影響を試算する。

 一「新築工事の費用」。建築工事費を100とすると、躯体工事費は40くらい。杭工事費のXは、支持層の深さや杭の本数によって異なるが、1~5程度。

 二「解体工事および建替工事の費用」。解体工事費は20~30くらいで、建替工事費は130くらい。合計すると150程度になる。このうち建替工事費を130くらいとしたのは、以前の新築工事と今後の建替工事を比べると、建築工事費が約30%アップすると見込んだもの。

 三「入居者の一時退去費用」。2年~4年分の費用がかかる。

 2つの試算を比較する。まず東洋ゴム工業は、免震装置費用Y(1~5程度)を得るために、補強工事の費用として10~20くらいを負担しなければならない立場に追い込まれた。

 これに対して、旭化成建材は杭工事費X(1~5程度)を得るために、解体工事および建替工事の費用として150くらいを負担しなければならない立場に追い込まれた。東洋ゴム工業とはひと桁違う負担である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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