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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年11月25日

第158回「マンション管理神話」を代表する最新例

 昔から「マンションは管理を買え」といわれる。これは、「建物がきちんと管理され、かつ修繕されてきた場合、マンションの資産価値が長く維持される事実」に着目。「管理組合として、適切な管理計画と修繕計画を立案し、必要な管理費と修繕積立金を確実に徴収し、かつ計画的に修繕していけば、やがて優れたマンションという神話が浸透していく」という定説である。

 最近、「マンション管理神話」を代表する最新例に躍り出たのが、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」の管理組合である。このマンションは2009年竣工、203.5m、59階建て、794戸。三井不動産レジデンシャルを筆頭とする複数の会社が分譲した。

 分譲時に事業者が作成した計画では、修繕積立金は1戸当たり月額約7000円と安く、計画期間は30年しか考えていなかった。また、修繕積立金は5年ごとに値上がりし、築20年目には月3万円近くになり、全期間の平均では2万円だった。

 入居から数年後に、同管理組合の理事会は、首都圏にある築30年以上のマンションの取引事例を調査。修繕積立金が潤沢な物件ほど高値を維持しているという結論を得た。

 そのため、「住民による住民のための修繕ルール五箇条」を作成した。

 一 50年間の資金を確保する。

 二 修繕積立金の値上げは原則1回だけ。

 三 費用見積もりは保守的に行う。

 四 現在と将来の住民の負担を公平にする。

 五 このマンションは「50年安心」という評価を市場に定着させる。

 そして、2013年7月の管理組合総会に、月約7000円の修繕積立金を、約1万7000円へ引き上げる議案を提出して、承認された。新計画では、目先の負担は増すが長い目では得になる。

 筆者はこの「修繕ルール五箇条」を高く評価。日経BP社のウェブサイト「SAFETY JAPAN」に掲載されたコラムの中で、次のように呼びかけた。

 「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー管理組合の皆さん。建築費の高騰にどのように立ち向かうべきか、研究しておられますか。方向性が見えてきましたら、ぜひ『50年安心計画』のページでご披露ください。マンション管理に関心を持つ人たちにとって、貴重で有用な情報になると思います」。

 後日、幸いにも「将来リスクに対応した50年安心計画」と題する、回答をいただくことができた。骨子は以下の3点。

 一 支出計画の中に十分なバッファーをおいています。

 二 日常の保守・修理と組合わせて支出額を抑制する仕組みとしています。

 三 資産収益を活用して、将来の物価上昇リスクを自動的にカバーします。

 マンションの将来に希望を持ち、確信を抱くことができる内容が盛り込まれている。

 (注)将来リスクに対応した50年安心計画のURL

    http://www.midskytower.com/wp/?p=2151

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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