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2016年12月13日

第232回豊洲マンション「暴落危機説」の真相

 あることが原因になって、予想外の影響が出ることを、コトワザで「風が吹けば桶屋が儲かる」という。今年8月に行われた東京都知事選で小池百合子新都知事が誕生したことに伴って、東京都江東区豊洲に建つ分譲マンションに、予想外の影響が及んだ。

 小池都知事が豊洲市場の安全性を確認すると、意外にも、土壌汚染対策のために必要な盛土がされていないことが判明。その風評被害が分譲マンションを巻き込もうとしたのである。

 9月から10月にかけて、日刊紙や週刊誌にいろいろな記事が掲載された。

 

 「豊洲マンション"暴落危機"、風評被害が直撃、資産価値3割減とも」

 「豊洲エリアのマンションに暴落危機、新市場問題がマイナス要因に」

 「風評被害の豊洲はWパンチ、不動産暴落危険エリアはどこ?」

 いずれも "暴落危機"という言葉が踊っているのだが、それでは豊洲のマンションは本当に暴落しているのだろうか。こういう場合に手がかりになるのは、国土交通省が四半期毎に公表している「地価LOOKレポート」である。

 小池都知事が当選する前に公表された、第2四半期(4月1日~7月1日)の地価LOOKレポートには、次のように記されていた。

 【総合評価──0~3%上昇】

 「地価動向──当地区の分譲マンションに対する需要は依然として強く、マンション分譲価格の上昇は続いている。中古マンションの取引市場においては、地区内の買換えによる中古物件の大量供給があって以降、需要者による物件の取捨選択が行われるようになり、割高な物件がやや売れにくくなっている。建築費高騰の影響からデベロッパーの採算性が厳しくなっているものの、周辺の開発による地域の発展期待もあり、デベロッパーによる素地の取得意欲は強く、地価動向は引き続きやや上昇傾向で推移している?」

 「将来地価動向──東京五輪開催決定以降、購入層の取得意欲は高く、新築・中古ともにマンション価格は上昇を続けてきたが、一次取得層による購入限度額が近づいている。また、新築・中古ともに住戸の大量供給が続いており、将来的には、新築・中古ともに取引件数の減少が予想される。一方、当地区は都心に近く、インフラ整備や利便施設の進出も予定されていることから、当面はマンションの価格は維持することが見込まれるため、将来の地価動向は横ばいと予想される」

 これを要約すると、「割高な物件がやや売れにくくなっているが、当面はマンションの価格は維持することが見込まれる」。すなわち、豊洲市場の汚染問題が発覚するまでは、豊洲の分譲マンションは堅調だったのである。

 続いて11月25日に、待望の第3四半期(8月1日~11月1日)の地価LOOKレポートが公表された。

 【総合評価──0%横ばい】

 「地価動向──東京五輪開催決定以降、当地区は強いマンション需要を反映して、新築マンション分譲価格の上昇が続いたが、一次取得層による購入限度額に近づいており、足元では価格上昇の動きが一段落している。また、中古マンション取引においては需要者の購入意欲は底堅く、新築時の分譲価格と同程度の水準での取引も多く見られるが、価格を調整して成約に至る取引も目立っている。なお、豊洲市場の移転延期の決定に関しては、当地区のマンション需要を減退させるものではなく、マンション分譲価格への影響は認められない。このような状況から、デベロッパーの投資採算性が反映される当地区の地価動向は横ばいに転じた」

 「将来地価動向──当地区では、新築・中古ともに住戸の大量供給が続いたため、将来的には、取引件数の減少が予想され、また、豊洲市場のオープン延期に伴って環状2号線の開通が不透明となったことに関しては、現時点でマンション市場への目立った影響は認められないが、今後、インフラ整備による利便性向上を期待して、マンションや素地を取得した者による売却の動きが出てくることも考えられる。一方、都心に近い当地区は、居住目的を中心としたマンション需要が底堅いため、マンション分譲価格等の安定的な動向を背景に、当地区における将来の地価動向は横ばいと予想される」

 これを要約すると、「豊洲市場の移転延期の決定に関しては、当地区のマンション需要を減退させるものて?はなく、マンション分譲価格への影響は認められない」。暴落という言葉は、どこにも書いていない。すなわち風評被害を、明確に否定したのである。

 その一方では、第2四半期(4月1日~7月1日)の総合評価が「0~3%上昇」だったのに、第3四半期(8月1日~11月1日)の総合評価が「0%横ばい」に転じていることに注意しなければならない。

 築地市場から豊洲市場への移転はいつ実現するのだろうか。その時期に関しては、大きく2つの可能性がある。ケース1「豊洲の安全が確認でき、環境アセスメント(影響評価)のやり直しをしなくていい場合」には、2017年冬から2018年春にかけて移転の環境が整う。しかし、ケース2「環境アセスメントのやり直しが必要な場合」には、2018年冬から2019年春頃にずれ込むとされている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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