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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2022年9月27日

第408回 大和ハウスグループの「新マンション学」❺「マンションみらい価値研究所」が新施設「赤坂プラスタ」でセミナーを定期開催

 大和ハウスグループは、「マンションみらい価値研究所」と名付けられた、とても興味深い研究所を有しています。この「マンションみらい価値研究所」は最近、情報発信プラットフォーム「赤坂プラスタ」(東京都港区)を2022年4月にオープンしたと発表しました。

 この「赤坂プラスタ」は、大和ライフネクスト(大和ハウスグループのマンション管理会社)の「赤坂本社1階」をリノベーションして、設立されたものです。全体として、「有観客で配信可能な大型スタジオ」と、「ラジオブース型のスタジオ」を備えた、モダンな『情報発信 プラットフォーム』になっています。

 それゆえに、「行政・学術界などの専門家」や「若手研究者・NPO」などによる交流・対話を誘致。そこから得られる「多彩な知見」を、オンライン・リアルの両方を通じて発信していく計画です。

 また、「マンション管理に関する社外向けのセミナー・イベント」なども、定期的に開催する予定です。今後、同施設でのセミナー・イベント開催などを通じて、 マンションにまつわる情報の発信を強化していくことになると思われます。

[■■]「マンションみらい価値研究所」の新たな挑戦

 大和ライフネクストは2022年6月30日付で、ウェブサイトに、「マンション管理と社会の明るい未来のために、〘マンションみらい価値研究所〙の新たな挑戦」、と題する記事を掲載しました。

 記事を執筆したのは、大和ライフネクストで働く大野稚佳子氏です。同氏は、入社以来さまざまな部署で、多角的にマンション管理に携わってきました。その経験を活かし、現在は「マンションみらい価値研究所」にも参画しています。

 大野氏の記事は、かなり長い文章なので、そのエッセンスだけを要約しましょう。
URL<https://www.talent-book.jp/daiwalifenext/stories/48896>

 ◆分譲マンションの課題は、社会の課題になる。管理会社の私たちにできること。

 大和ライフネクストは2019年に、「マンションみらい価値研究所」を設立しました。マンション管理会社としては初となる総合研究所です。

 設立の目的は、マンション管理組合が抱えるあらゆる課題、すなわち「高齢化にともなう役員のなり手不足」、「建物の経年劣化への対応」などの解決につながるよう、「情報発信を通じてマンション管理に関わるステークホルダー」、すなわち「株主・経営者・従業員・顧客・取引先、金融機関、行政機関、各種団体など、企業のあらゆる利害関係者」との間に、良い循環を生み出していくことでした。

 そのためにさまざまな調査と研究を行い、レポートを執筆し、毎月ホームページ上で公開しています。

 具体的には、「築40年を経過したマンションの修繕工事費の実績」、「消えゆく機械式駐車場」などのハード面に関するものから、「管理組合の資金運用の実態について」、「マンションではどんな訴訟が起きているか?」などのソフト面に関するものまで、多岐にわたるテーマを取り上げてきました。

 大和ライフネクストには、約40年のマンション管理事業を行ってきた実績があります。その中で得られた膨大なデータと知見をもとに、時には1700件以上の現場の声を救い上げ、レポートとして世の中へ広く発信してきました。

 そのほかにも、メールマガジンの配信やセミナーイベントの開催、また最近では、2022年4月に大和ライフネクスト本社内にオープンした、スタジオ機能を備えたスペース「赤坂プラスタ」を活用した情報発信にも取り組んでいます。

 マンションは今や社会インフラのひとつです。「適切に管理していかないと、将来的に管理不全のマンションが近隣に悪影響を与える」といった、社会問題に発展することも予想されます。それゆえに、マンションの所有者、つまり管理組合がご自身の資産として、マンションを良い状態に保っていく必要があります。

 そのサポートをしていくのが管理会社の使命です。しかし、私たちはマンション管理の現場で様々な問題を目の当たりにして、危機感を抱いています。

 マンションごとの個別の事情もあれば、「居住者の高齢化によって、工事の資金となる修繕積立金が不足してしまった」、「認知症の方が孤立してしまった」など、多くのマンションに共通する社会的な課題もあります。

 これらの課題に私たちだけで取り組むのではなく、「マンションみらい価値研究所」から世の中へ広く発信していくことで、社会全体に働きかけて、少しずつでも状況を変えていきたい・・・。そんな想いで日々研究を続けています。

[■■]情報発信を続けることで、少しずつでも確実に変化が訪れる

 私は今、マンション管理の現場を支えるバックオフィス部門にいますが、その前には、現場でフロント業務を担当していました。

 具体的には、複数のマンションを担当して、理事会に対して多岐にわたる提案を行い、それを総会にはかり、組合運営をサポートしていました。ただ、一通り仕事が分かってきたころから、少しずつモヤモヤを感じるようになりました。

 たとえば、「高齢化が進んだマンション」。建物も経年が進むとより多くの修繕が必要になるのですが、工事費用を集めようにも、高齢で年金暮らしの方が多いと、修繕積立金の値上げは難しい……。それゆえに、「これまで通りの管理業務の提供だけでは、いずれは限界を迎えるかもしれない」と、痛感するようになりました。

 「建物も人も老いていく。それは変えられないけれど、何も手を打てないのかという無力感やモヤモヤがあって……」。明るくない話ですよね。その後、現在のバックオフィス部門に異動してからも数年間、そのモヤモヤが心の底に残っていました。

 その頃、久保依子と田中昌樹(いずれも「マンションみらい価値研究所」のメンバー)が、社内提案制度で入賞した、「総合研究所プロジェクト」の設立に向けて動き出していました。これは、今の「マンションみらい価値研究所」の前身に相当します。

 私の直属の上司であった久保が、「こういうことを始めるの」とすごく楽しそうに話すのを聞いていて……。その姿に、とても前向きな未来を感じました。モヤモヤの解決へのヒントを得た気がして、「私も協力したい」と申し出たところ、研究員として参加できることになりました。

 ただ、レポート発信を始めた当初は、「どのぐらい社会の役に立っているのかな」と、不安になった時期もありました。現場で感じていたことを、レポートとしてまとめる達成感はありました。

 ただ、何か発信をしても、それがすぐに問題の解決につながるわけではない。考えてみれば当然のことかもしれませんが、当時は焦りを感じていました。

 しかし、あるとき社内から、「役員報酬に関するレポートが、担当マンションで報酬額を検討する際に参考になったよ」という声をもらったんです。それから、本当に少しずつではあるけれど反応が返ってくるようになって、「マンション管理に関わる誰かの役に立てているんだ」という実感が湧いてきました。

 また、一部のレポートを「プレスリリースの形」でメディア向けにも配信するようになってからは、全国紙やWebサイトなどで研究結果を引用してもらえる機会も増えました。

 それで、「マンション管理には問題が山積みである」ということを、「気づいてもらうきっかけにもなっているな」、と。そして、「やはり情報発信は、続けていくことが大切なんだな」、と感じるようになりました。

[■■]2022年4月オープン「赤坂プラスタ」にかける期待

 さまざまな思い入れを持って取り組んでいる「マンションみらい価値研究所」ですが、大和ライフネクスト本社の1階部分をリノベーションし、今年2022年4月にオープンしたばかりの「赤坂プラスタ」は、大いに活用させてもらっています。

 「赤坂プラスタ」は、有観客で配信できる「まるでテレビ局のような大型スタジオ」と、「ラジオブース型のスタジオ」の2種類を備えた情報発信施設です。

 当社のどの部署でも利用できる施設なのですが、私たち「マンションみらい価値研究所」としては、ホームページで「レポートという文字情報」として発信しているものを、「動画」で発信する場所として活用しています。

 このスタジオの最大の目標は、「さまざまなステークホルダーによる交流・対話」を行い、「そこから得られる多彩な知見を世の中に発信」し、「その情報発信を通じて社会とのつながりを生み出すこと」です。

 「マンション管理」を通じて「社会の課題」を見つけ、その解決に向けて新しいことに積極的に取り組んでいく大和ライフネクストの強みを、存分に活かすことのできる場であると思います。

 現在はコロナ禍ということもあり、社外向けイベントは配信がメインとなっています。しかし、いずれはお客様や協力会社の方を招いて、オンラインもリアルも幅広く交流し、「課題について一緒に考えることができる場」にしたいと考えています。

 大型スタジオの方は「コワーキングスペース」になっており、イベントや配信を行っていない時間は社員が自由に使うことができます。会議をすることはもちろん、違う事務所のメンバーとの交流ができます。

 スタジオで何かの準備をしていたり、会議をしたりしている様子を、周りで仕事をしている他部署の人が見て、そこから会話が発生し、偶然アイデアや交流が生まれる……などということを期待しています。

 さらに、情報発信や交流を通じて、「マンション管理の最前線で働いている社員の誇りにつながるといいな」、という気持ちもあります。

 現場の仕事一つひとつがデータや知見として集まって、研究所のレポートとして発信されて、社会に対しても影響を与えることができる。だからこそ、「管理現場の誰もが、自らの仕事の重要性を実感してもらうことができるといいな」、と思っています。

[■■]マンション管理の明るい“みらい”は、私たちの社会全体の明るい“みらい”

 マンション管理事業は、暮らしの土台を支える社会インフラ的性質があり、人々の生活に根差した社会課題が身近にあります。だからこそ、その課題を取り扱う研究所があるのです。

 今回、スタジオ新設という取り組みは目新しいのですが、これまで私たちがマンション管理事業を長年行ってきて、「提供してきた価値の延長」というようにも思っています。

 たとえば分譲マンションでは、当然水も出るし、エレベーターも作動している。それが明日突然故障しても、ほとんど管理会社と設備会社だけでなんとかなるでしょう。

 でもそれが、「建物の老朽化や居住者の高齢化」のような、より長いスパンの課題になってくると、課題解決に必要な登場人物が増えてきます。場合によっては、行政やマンション周辺に住む方々まで働きかけ、対話をしていく必要があります。

 今日明日の未来を指す『あした』ではなく、数十年やそれ以上という長いスパンの『あしたのあたり前』を、社会を巻き込みながら作っていく。それが私たちの情報発信、ひいては研究所としての存在意義なのだと思います。

 ホームページの「レポート」を、読んでくださっている方も、たくさんいらっしゃいます。主に「マンション管理士や弁護士」、「同業他社や不動産業界の方」、そして「管理組合の組合員の方々」が見てくださり、課題解決のために参考にしていただいているようです。

 その情報発信の形は続けつつも、これまで届かなかった層の方にも情報を伝えていきたい。そのために、「動画配信という新たなカタチ」を実現するための舞台装置が、「赤坂プラスタ」なのだと思っています。

 たとえば「SDGS(持続可能な開発目標)」という言葉も、認知が広まって、いろいろな取り組みが進んでいますよね。

 そんな風に、より多くの人に気づきを与えるような情報発信を続けて、これまで関わっていなかった人たちの意識が変わって、それぞれの立場で知恵を絞るという行動が生まれる。

 そうやって一人ひとりの力が集まれば、解決につながる大きな力になります。それが当研究所のテーマである「マンションの明るい“みらい”」につながると考えています。

 マンション管理は、まさに社会の縮図です。目指すは、より多くの人が心地よい距離感でつながり、お互いの暮らしを豊かにしていける未来。そのために「マンションみらい価値研究所」、そして「赤坂プラスタ」が、大きな一歩を踏み出すきっかけになればと思います。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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