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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年2月27日

第275回積水ハウスで"クーデター騒ぎ"─「地面師による詐欺事件」第2幕

 【その1──プレスリリースに書かれなかった事実】

 積水ハウスに世間を騒がす大騒動が発生した。その内容を理解するためには、まず2種類の資料をじっくり読み比べる必要がある。

 最初の資料は、同社が今年1月24日に公表した、「代表取締役の異動に関するお知らせ」と題するプレスリリースである(下の表はリリースから引用)。

 リリースではまず、2月1日付けで和田勇会長は取締役相談役に退き、続いて4月末の定時株主総会で取締役も退任予定とした。 

 次に、新会長には阿部俊則社長、新副会長には稲垣士郎副社長、新社長には仲井嘉浩取締役がそれぞれ昇格するとした。

 異動の理由としては、「世代交代を図り、激動する市場環境に対応できる新たなガバナンス体制を構築し、事業の継続的な成長を図る」とした。

 そして2番目の資料は、そのリリースから約1ヵ月後に発行された、2月20日付の日本経済新聞である。同紙は「和田勇会長は世代交代で退任したのではなく、阿部俊則社長らによる一種のクーデターで解任された」とする、衝撃的なスクープ記事を掲載した。

 すなわちプレスリリースには書かれなかった事実を探り出したのである。記事は異例にも、総合1面と企業2面を使った二重の構成だった。

 【その2──解任事件の背景に「地面師による詐欺事件」】

 日経新聞の記事を要約する。

 一 積水ハウスは2017年7月、マンション用地の取得にからみ63億円の詐欺被害にあった。

 二 2017年9月、同社は調査対策委員会を発足させた。

 三 2018年1月24日、「執行の責任者には重い責任がある」と記した報告書が提出された。

 四 同日午後2時、和田会長が取締役会に「執行の責任者である阿部社長の退任案」を提出したが、否決された。

 

 五 その後、阿部社長が取締役会に「和田会長の退任案」を提出し、可決された。

 六 このため和田会長は辞任を余儀なくされた。

 七 同日午後6時半。阿部社長が記者会見で、「若返り」を強調した。 

 このうち、「七 阿部社長(現・新会長)の記者会見」から約1ヵ月経った2月20日。日本経済新聞は「和田勇会長は退任ではなく、阿部俊則社長らによる解任だった」とスクープしたのである。

 すなわち、「阿部社長が記者会見で若返りを強調した」のも、「プレスリリースに異動の理由は世代交代のためと記した」のも、真っ赤な嘘であると指摘したことになる。

 同紙には和田会長(現・相談役)へのインタビューも掲載された。

 「地面師による被害はだまされた方が悪い。調査報告書には阿部社長の責任が重いと記された。今回の解任は、地面師に引っかかった自分たちの責任を消すために、クーデターを起こしたという感じだ」

 【その3──逃げまくる阿部社長(現・会長)】

 私は本コラムの258回で、「積水ハウスはなぜ"地面師"にダマされて63億円ものお金を失ったのか」と題する記事を書いた。そして「事件の原因は、積水ハウスの品質管理体制が甘すぎるため」と指摘した。

 普通の企業であれば、品質管理体制の向上に注力するところだ。しかしながら積水ハウスの場合には、なぜか経営者同士のゴタゴタした権力闘争に発展した。誠に見苦しい展開である。

 しかも積水ハウスの阿部社長(現・会長)は、日経新聞が取材を申し込んだにもかかわらず、「時間が取れない」との理由で応じなかったという。ある意味で起業存亡の危機が訪れているのに、取材を恐れる余り、隠れて出てこないのだから情けない限りである。

 本人も「これではまずい」と自覚したのか、ウェブサイトに2月20日付で「お知らせ──代表者異動に関する一部報道について」を掲載。「前会長を解任した事実はなく、本人の意思による辞任で世代交代を決定したもの」と主張した。ただし、世間ではこれを「犬の遠吠え」という。

 後で詳しく説明するが、取材を断って隠れてしまうのは、同社が最も得意とする手法である。

 

 【その4──住宅情報誌「ハウスメーカー」との深刻なトラブル】

 積水ハウスはなぜ、こんな情けない体質になってしまったのだろう。そのきっかけは、住宅情報誌「ハウスメーカー」との間に発生した深刻なトラブルにあったと思われる。

 住宅情報誌「ハウスメーカー」とは、1990年代に「スペースデザイン研究所」から発行されていた雑誌である。住宅メーカー各社のプレハブ住宅を、多数の図面や写真を添えて掲載し、最後に点数を付けるという内容だった。

 事情を知らないユーザーは、点数が高ければ性能が優れた住宅で、点数が低ければ性能が劣る住宅と思い込む。しかし実際には、住宅メーカーがお金を出せば点数が上がり、お金を出さなければ点数が下がる、という仕組みだった。すなわち、「編集記事」風に仕上げていたが、実際には「広告記事」だったのである。

 こんな雑誌は相手にしなければいいのだが、なぜか積水ハウスは同誌と付き合いはじめた。そして1999年の初めころ、積水ハウスと同誌の間に、広告料金を巡ってトラブルが発生した。

 そのトラブルが深刻化したため、同誌は追い打ちをかけるかのように、「積水ハウスの住宅に欠陥がある」という記事を掲載した。この手の雑誌がよく使う手法である。

 この段階になって、積水ハウスも泥沼にハマッたことを自覚したと思われる。

 そして警視庁に被害届けを提出するだけではなく、東京地裁に「記事の差し止め訴訟」を提起した。そして最終的には「ハウスメーカー」の代表は逮捕され、また東京地裁も2002年に「悪質な犯行である」として「ハウスメーカー」の代表に懲役刑を言い渡した。

 ある意味では、積水ハウスが地面師にダマされて、63億円ものお金を失った事件との類似感がある。ちなみに、和田勇前会長は1998年には社長だったので、「ハウスメーカー」事件に関しては最終責任者の立場にあった。

 【その5──「陰の積水ハウスvs陽の大和ハウス工業」というイメージ】

 住宅情報誌「ハウスメーカー」事件が一件落着した頃から、住宅会社に詳しいジャーナリストの間では、「陰の積水ハウスvs陽の大和ハウス工業」というイメージが広まった。

 その象徴とされたのが、「メディアから逃げまくる積水ハウスの姿勢」だった。話を分譲マンションに限っても、積水ハウスのようにメディアの取材を嫌がる会社は珍しい。

 このコラムに目を通している皆さんは、メディアで同社のマンションを分析する「編集記事」を読んだことがあるだろうか。ほとんどの人が覚えがないと思われる。

 仮に読んだ記憶があるとすれば、それは中立公正な「編集記事」ではなく、リクルート社の「SUUMO」などに掲載される、編集記事風に仕上げた「広告記事」だったと思われる。

 私自身の経験でいうと、日経産業新聞に連載している「目利きが斬る」という欄に取り上げるため、主要なデベロッパーには何回も取材を申し込んでいる。そしてほとんどのテペロッパーが快諾してくれるのだが、どういう訳か「積水ハウス」だけは取材に応じてくれたことがない。

 私「これは今年の目玉物件です。ぜひ、取材させてください」

 積水ハウス広報担当者「お断りします」

 私「どうしてですか?」

 広報担当者「理由は説明できません」

 同社はなぜ、メディアを避け続けるのか。今なお住宅情報誌「ハウスメーカー」事件の後遺症から抜けきれないためと思われる。

 そういう状態の中で、2017年には「63億円の詐欺被害」が発生。それに関連して2018年には「和田勇会長解任事件」が続いた。同社は今後ますます逃げ腰になり、ガードを固めて、取材拒否の姿勢を強めるに違いない。

 さて、大手住宅メーカーの中では積水ハウスと大和ハウス工業が2強と呼ばれ、プレハブ住宅メーカーの枠を超えて、分譲マンションを初め事業の多角化に取り組んでいる。

 そういう中で目立つのが、「陰の積水ハウスvs陽の大和ハウス工業」という対照的な構図である。

 【積水ハウス──陰】

 取材に応じようとしないため、メディアの不信感が強まっている。

 そもそも取材の手がかりになるプレスリリースの数が少ない。またその内容も「代表取締役の異動に関するお知らせ」(1月24日付)に象徴されるように、"虚偽"が混じっているため信用できない。

 それに加えて、今回発生した和田勇・前会長と阿部俊則・現会長の権力闘争に象徴されるように、社内がゴタゴタしている感じが強い。よって「陰」として敬遠される。

 【大和ハウス工業──陽】

 基本的には取材はウェルカム。いつでも丁寧に対応してくれる。

 それに加えて、取材の手がかりになるプレスリリースの数が圧倒的に多い。その内容も新規事業の展開、主要な分譲マンションの販売など多種多様。

 また、いわゆる「事件」「事故」が発生した場合にも、隠そうとせずありのままを伝えてくれる。

 それに加えて社員も明るい。よって「陽」として親しみを持たれる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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