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「斜め45度」の視点

2018年10月2日

第297回 厚労省・国交省・観光庁が「マンション民泊問題」解決に“三重の対策”

 民泊の新しいルールを定めた「住宅民宿事業法(民泊新法)」が2018年6月15日からスタートした。

 民泊新法がつくられたのは、分譲マンションなどで許可を得ないまま民泊を行うケースが多いため、近隣住民から苦情が数多く寄せられ、社会問題になった結果である。

 (1)セキュリティへの不安──見知らぬ外国人が、頻繁に分譲マンションの部屋に出入りして不安。また部屋を間違えて、ドアを開けられそうになることも多い。

 (2)騒音──室内で騒ぐ音や、深夜のドアの開閉音がうるさい。また間違えて、別の部屋のインターホンを鳴らすこともある。

 (3)ゴミ出し──分別していない。また指定の日以外に大量に出す。

 (4)連絡先が分からない──民泊サービスの運営者が不明のため、苦情をぶつける先がない。

 そのため民泊新法では、「民泊を営む事業者」に対して、都道府県への届出、衛生確保・騒音防止、標識の掲示などを義務付けた。さらに、「ウェブサイトなどで民泊の仲介サービスを行う事業者」に対しても、観光庁長官の登録を受けることを義務付けた。

 それでは、分譲マンションの一室を利用して、住宅宿泊事業を営もうとする者(住宅宿泊事業者)は、どのような手続きを踏めばいいのだろう。厚生労働省、国土交通省、観光庁が共同で運営する「minpaku(民泊制度ポータルサイト)」を参照する。

<http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/index.html>

 同ウェブサイトの「住宅宿泊事業者の届出に必要な情報、手続きについて」によると、住宅宿泊事業者は関係官庁に届け出る前に、まず次の事項を確認する必要がある。

(1)分譲マンションで住宅宿泊事業を営もうとする場合には、マンション管理規約において住宅宿泊事業が禁止されていないかどうか確認する。なお規約で禁止されていない場合でも、管理組合において禁止の方針がないかどうかの確認が必要となる。

(2)最寄りの消防署から「消防法令適合通知書」を入手しているかどうか確認する。なお、この通知書を入手するためには、消防署の立入検査等を受ける必要がある。

(3)届出者が賃借人・転借人の場合は、賃貸人・転貸人が「住宅宿泊事業を目的とした転貸であること」を承諾しているかどうか確認する。

 このうち、まず(1)に注目したい。「マンション管理規約で民泊が禁止されていればダメ」、「規約で禁止されていない場合でも、管理組合に禁止の方針があればダメ」。管理規約だけではなく、管理組合の方針を聞くことも求めている。

 次に(2)である。「消防署の立入検査を受けて、消防法令適合通知書を入手していなければダメ」。

 このように、民泊問題を解決するため“三重の対策”を講じているのである。

 なぜ、“三重の対策”なのか。その背景については、横浜市建築局住宅局のウェブサイト、「住宅宿泊事業法(民泊新法)の成立に伴うマンション標準管理規約の改正について」を読むとよく分かる。

<http://www.city.yokohama.lg.jp/kenchiku/housing/minju/minpaku/minpakushuchi.html>

 このウェブサイトは、全体として次のように要約できる。

 厚生労働省の医薬・生活衛生局が2016年2月に開催した、第6回「民泊サービスのあり方に関する検討会」に、分譲マンション「ブリリアマーレ有明Tower&Garden」管理組合から、「管理組合側からみた民泊の問題点」と題する重要な資料が提出された。そのポイントは以下の4点である。

 実は「ブリリアマーレ有明」管理組合は、2014年4月に住民総会で管理規約を改正して「民泊」を禁止している。それにもかかわらず、2015年にマンション内で「民泊行為」が発覚してしまったのである。

 それゆえに管理組合として、「1静謐で穏やかな住環境を破壊する」「2セキュリティの懸念がクリアできない」「3区分所有者全員が払う管理費にフリーライドしている」「4マンションは不特定多数のゲストを受け入れる構造になっていない」ことを、深く実感したという内容である。この主張には強い説得力がある。

 厚生労働省、国土交通省、観光庁などの関係官庁は当初、「マンション管理組合が管理規約を改正して、民泊の禁止を明示すれば十分」と考えていたような気配がある。

 しかし、「ブリリアマーレ有明」管理組合が提出した説明資料を読んで、考え方を変更したのであろう。

 特に、「マンション管理組合が管理規約を素早く改正してくれるとは限らない」と強く心配。それゆえに、「マンション管理規約で民泊が禁止されていればダメ」という表現に加えて、「規約で禁止されていない場合でも、管理組合に禁止の方針があればダメ」という表現を追加したと思われる。

 さらに、「消防署の立入検査を受けて、消防法令適合通知書を入手していなければダメ」と念を押して、
“三重の対策”を講じた。

 こういう方針は、分譲マンションの管理組合として、「ウェルカム」であろう。また分譲マンションのデベロッパーにとしても、納得できるに違いない。

 最後に、民泊専門メディア「Airstair」を運営するRecreator合同会社が作成した、「民泊サービス業界マップ2018」を紹介しよう(下の図)。

 この中で注目してほしいのが、ほぼ真ん中にある「民泊マンション」という項目で、4社の名前が掲載されている。

 「百戦錬磨」──百戦錬磨は民泊仲介サイト「STAY JAPAN」を運営するほか、12階建て中古賃貸マンションを民泊マンションに改築した「SJ大阪セントラル」などの事業を展開。

 「KEIO」──京王電鉄は2017年2月、東京都大田区蒲田で鉄道業界では初となる一棟まるごと民泊マンション「カリオ カマタ」を、「百戦錬磨」と提携してオープン。

 「TAKUTO」──宅都ホールディングスは近畿大学の学生向け「食事付き賃貸マンション」、簡易宿所型民泊施設などの事業を展開。

 「Shinoken GROUP」──シノケングループは「リノベ×民泊」「民泊対応型アパート」などの事業を展開。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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