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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年9月9日

第150回販売担当者が知らないタンクレストイレの「深刻な欠点」

 「超一流のマンションデベロッパー」の販売担当者なら、タンクレストイレに「深刻な欠点」がある事実を知っている。しかし、「それ以外のデベロッパー」の販売担当者になると、タンクレストイレの「深刻な欠点」を知っている人は割合に少ない。

 タンクレストイレの欠点は、パンフレットに載っているレベルの「普通の欠点」と、実際に使ってみて初めて分かる「深刻な欠点」の二種類に分かれている。

 タンクレストイレの長所は、コンパクトで、デザイン性に優れ、清掃しやすいこと。それに対して「普通の欠点」は、価格が高く、断水時や停電時には水を流せない可能性があり、便座が故障したときには便座だけではなく全体を取り替えなければならないこと。

 しかし、実際に使ってみると、これとは別に「深刻な欠点」を抱えていることが分かった。「小」のときにはきれいに流れても、「大」のときには排泄物やペーパーが流れなかったり、その跡が残ったりするなど、洗浄力に問題があるケースが発覚したのである。

 タンクレストイレできれいに流すためには、1平方センチ当たり約1キロの水圧が必要になる。普通のマンションでは、各住戸の水圧はメーターボックス内の圧力弁を使って、約3キロ程度に調整している。このため、一見すると、水圧は十分なように思える。

 けれども、マンションの多くの住戸でいっせいに水道を使ったり、住戸内で台所、お風呂、洗濯機を同時に使ったりすると、水圧が下がりすぎて、タンクレストイレの洗浄力が不十分になってしまうのである。

 タンクレストイレをいち早く導入したのは、超一流デベロッパーである。そのため「深刻な欠点」に気づくのも早くて、現在では外見的にはタンクレストイレに近い「改良型タンク付きトイレ」の採用に踏み切っている。

 要するに、最先端の現場では、「従来型タンク付きトイレ」→「タンクレストイレ」→「改良型タンク付きトイレ」、というように変化してきたのである。

 私はモデルルームを取材するとき、トイレでは便器の種類、ペーパーホルダーの位置、スペース的なゆとりをチェックする。ペーパーホルダーの位置は便器に座った人から見て、左側が正しい。その理由が分かりますか?

 日本人の多くは右利きであるため、直感的にはペーパーホルダーは右側にあった方が正しいような気がする。しかし、これだと、ペーパーを引き出しやすくなるため、無駄遣いする割合が高くなる。それを避けるために、ペーパーホルダーは左側が正しいとされた。日本人はこういう小さな工夫を積み重ねて、エコ先進国になったのである。

 さて、私はモデルルームでタンクレストイレを見ると、必ず「洗浄力は大丈夫ですか?」と質問する。残念なことに、「一流といわれるデベロッパー」でさえ、問題を理解していない販売担当者が少なくない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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