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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年3月29日

第28回東日本巨大地震と「液状化問答」

 質問「この土地は液状化に対して大丈夫ですか?」

 回答「はぁ・・・(無言)」

 私は大学と大学院で建築について学び、「建築構造の研究」で工学博士号を授与された。その後に、建築専門誌「日経アーキテクチュア」で、建築&住宅ジャーナリストとしての道を歩み始めた。

 よって、マンションを取材するときには、必ず、地震対策に関して質問する。しかし、姉歯元建築士による耐震偽装事件以前は、情けない回答をもらうことが少なくなかった。

 質問「耐震性はどうですか」

 回答「はぁ・・・。建築基準法は守っています」

 姉歯事件の直後は、しっかりした回答が返ってくる時期があった。しかし、ここ1、2年は「元の木阿弥」。唯一、次のように質問した場合にだけ、回答が返ってくる。

 質問「住宅性能表示制度の性能評価は受けていますか?」

 回答「はい。受けています」

 質問「耐震等級は1ですか?」

 回答「はい」

 しかし、これは、「建築基準法を守っていますか?」と聞いたのと同じなので、実際にはまったく意味のないやり取りである。

 さて、冒頭のやり取りである。

 質問「この土地は液状化に対して大丈夫ですか?」

 回答「はぁ・・・(無言)」

 私は、マンションの敷地が、東京湾の埋立地である場合には、必ずこう質問する。けれども、まともな回答が返ってきた覚えはない。

 模範回答はこうである。

 ケース1

 「液状化マップで調べましたが、この土地は幸い、液状化地域ではありません」

 

 ケース2

 「この土地は液状化しやすい土地です。よって、地盤を改良し、杭をしっかりと打ち込み、ライフラインが破断されないように工夫しています」

 建築基準法は、「極めてまれにしか起こらない大地震(震度6強から震度7)に対して、建物が倒壊しないこと」を求めている。東日本巨大地震において東京圏はおおむね震度5強だった。震度6強による地震力を1.0とすれば、震度5強の地震力は0.25程度である。要するに、4分の1程度の地震だった。

 それにもかかわらず、東京都に隣接する舞浜や新浦安は液状化現象により、広域が泥に覆われた。いつか必ず来る、東京直下地震、第2関東大震災、東海・東南海・南海連動巨大地震に、しっかり備えなければならない。

 【首都圏の液状化予測マップ】

 ■東京都の液状化予測マップ

 http://doboku.metro.tokyo.jp/start/03-jyouhou/ekijyouka/index.htm

 ■千葉県の液状化予測マップ

 http://www.pref.chiba.lg.jp/bousai/jishin/higaichousa/souteijishin/ekijouka.html

 ■埼玉県の液状化予測マップ(6-13ページ)

 http://www.pref.saitama.lg.jp/uploaded/attachment/953.pdf

 ■神奈川県の液状化予測マップ

 http://www.pref.kanagawa.jp/sys/bousai/portal/1%2C3202%2C9%2C9.html

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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