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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年11月11日

第156回グッドデザイン賞の受賞理由が大きく様変わり

 毎年10月になるとマンション各社から、「グッドデザイン賞」受賞のニュースリリースが送られてくる。例年は「Aマンションの外観デザインが評価されました」とか、「Bマンションのランドスケープが評価されました」といった、意匠デザインが対象になるケースが多い。

 しかし2014年度グッドデザイン賞では、受賞内容が大きく様変わりした。その象徴例が、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、阪急不動産、積水ハウスの4社が共同受賞した、「オープンディスカッションによる住宅企画──Tokyoイゴコチ論争」である。

 総戸数1229戸の再開発プロジェクト、「Tomihisa Cross」の設計に際して、新しいアイデアを採り入れるため、WEB上に企画会議室「Tokyoイゴコチ論争」を設置。完成したプランを対象に、4万人の参加者から10万の声を集めて、そのアイデアを「1000のイゴコチ」として集約。プランをブラッシュアップするため役立てた方法である。

 プロデューサーは野村不動産、ディレクターは野村不動産・DGコミュニケーションズ・プライムクロス、デザイナーは日本女子大学篠原研究室・プライムクロス・スタジオテラという体制だった。

 プロデューサーは「Tokyoイゴコチ論争」の目的を次のように説明する。

 「新築分譲住宅では、建築確認取得前に、消費者から広告やその商品に関する意見を聞くことができません。また建築確認取得後はすぐ工事が始まるため、アンケートを実施して商品を検討する作業を行うことには、時間的な制約が伴います」。

 「そんな中でも、建設中のプロジェクトに、住まい手の声をリアルタイムに反映させることで、従来の事業者主体の方法と異なる新しい住宅の作り方をデザインしたいという思いがありました」。

 「そこで、工事工程を調整し、顧客への伝達タイミングを通常より遅らせるなどのスケジュール調整を行って、誰でも参加できるオープンな環境で様々なアイデアを収集。集まった声はコミュニティデザイン、景観設計、施設運営など、各領域の専門家を交えて随時議論。単に多数決ではなく細やかな意見も積極的に反映しました」。

 審査委員は以下のように評価し、今年度のベスト100に選出した。

 「住宅づくりにおける住民の巻き込みは年々、進化している。その中でも、このプロジェクトは取り組みの質と量で卓逸している。4万人の参加者から10万の声を集め、専門家も交えて、居心地の良さを実現する1000のアイデアとしてまとめ、空間に反映した」。

 「着工タイミングを計算し細かくゾーニングすることで、住まい手からの声をできるだけ構造や空間デザインに反映するプロセスデザインが優れており、より多くの住宅メーカーによる採用を期待したい」。

 「1000のアイデアの中には、建てる時だけでなく、住民によって継続的な取り組みが必要なものも含まれており、住み始めた後の住民間のコミュニケーションの礎になっている点も素晴らしい。提供されるのではなく、自分たちでつくるもの──、そんな新しい住宅の作り方が見えてくる」。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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