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「斜め45度」の視点

2012年12月11日

第87回マンション関係法「改正案」の行方

 2012年の10月から11月にかけて、分譲マンションに関係する2つの法律の改正案が公表された。

 まず、国土交通省は2013年の通常国会に、「耐震改修促進法」の改正案を提出する方針であることを公表した。床面積が5000平方メートル以上の建物、および幹線道路や震災時の避難路に沿った建物に、耐震診断を義務づけて、調査に応じない建物の所有者には、50万~100万円程度の罰金を科すことを検討している。

 また、耐震診断の結果、十分な耐震な性能がない建物には、改修や建て替えを求め、従わない場合には、建物の名称を公表する。

 なお、耐震改修促進法は、阪神淡路大震災をきっかけに制定された。多くの人が利用する一定規模以上の「特定建築物」について、建築物が現行の耐震基準と同等以上の耐震性能を確保するように、所有者の「努力義務」を定めている。

 今回の改正案は、罰金と建物名称の公表を付加することで、「努力義務」に強制力を持たせることを狙った。分譲マンションも、当然ながら、「耐震診断の義務化」の対象になる。

 次に、法務省は、2013年の通常国会に、「被災マンション法」の改正案を提出する方針であることを公表した。

 そもそも、現行の「区分所有法」には、建物を「解体」して区分所有関係を清算する規定は存在しない。よって、「解体」については民法の原則が適用され、民法で定められた「区分所有者全員の同意」が必要になっている。

 また、阪神淡路大震災をきっかけに制定された被災マンション法も、「再建」を前提とした特別法であり、「解体」に関する規定はなかった。

 このため、法務省は、大災害に襲われたとき、「全員の同意」が足かせになって、復旧が遅れる可能性があると判断。「被災マンション法」に、「所有者および議決権」の「5分の4以上の賛成」を得た場合、建物を取り壊す旨の決議ができる「取壊し決議制度」を付加することにしたものだ。

 関係2法のうち、注目されるのは、「耐震改修促進法」の行方である。仮に、分譲マンションに、その改正案が適用されると、どのような事態になるのだろう。

 「調査に応じない建物の所有者には、50万~100万円程度の罰金を科す」──。分譲マンションの場合には、罰金を科せられる所有者とは誰を指すのか。管理組合で、耐震診断を行うか否かを決議して、「反対多数」で否決された際に、反対した所有者なのだろうか。それとも、区分所有者全員に罰金が科せられるのだろうか。

 「耐震診断の結果、十分な耐震な性能がない建物には、改修や建て替えを求め、従わない場合には、建物の名称を公表する」──。容積率にゆとりがある場合には、建物名の「公表」が、建て替えの動機になることがあるかもしれない。しかし、容積率にゆとりがなく、かつ所有者に経済的にゆとりがない場合には、「このマンションは危険です」と公表されても、事態の改善は期待できないような気がする。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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