リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年9月30日

第152回販売担当者が知らないマンション内の移動時間

 私はタワーマンションや大規模マンションの取材では、必ず住戸からマンションの入口までの動線を確認。その後に、エレベーターの速度と平均待ち時間を尋ねる。けれども、モデルルームの販売担当者のうち9割程度が、この質問に回答できない。

 タワーマンションの欠点の1つは、誰でも分かるように、上下移動に時間がかかること。マンションから最寄り駅まで徒歩5分なのに、マンションのエントランスホールから住戸の玄関まで同じく5分かかるという例も少なくない。

 建物内の移動時間は次の式で求める。

 「建物内移動時間」=「住戸からエレベーターホールまで歩く時間」+「エレベーターの平均待ち時間」+「エレベーターの上下移動時間」+「エレベーターホールからエントランスホールまで歩く時間」

 一流のデベロッパーであれば、設計の段階で、設計者と企画担当者が建物内移動時間を考慮して、エレベーターの必要台数と必要速度を決めているはずである。しかし、それが、販売担当者に伝えられていないケースが多いため、パンフレットにエレベーターの速度が記載されている例は少数に止まり、また平均待ち時間が記載されている例は皆無に近い。

 タワーマンションと似たような事情にあるのが大規模マンションである。マンションが複数棟で構成され、各棟が共用廊下で結ばれている場合には、住戸からマンションのエントランスホールまで、延々と歩かなければならない。

 私は最近、共用廊下を最長で120メートル歩くマンションと、200メートル歩くマンションを取材した。これは2つの意味で問題がある。1番目は、女性や高齢者が、重い物を持って運べる距離の限界は50メートルとされていること。その2倍を超えているのだから、明らかに住みにくいマンションということになる。

 2番目は、共用廊下の幅である。道路では80メートル歩くのに1分かかることになっているが、幅が100センチから150センチ程度の共用廊下は、果たして分速80メートルのスピードで進めるのだろうか。

 「駅から徒歩○分」を売り物にするのであれば、タワーマンションや大規模マンションでは、建物内の平均移動時間も明示するべきであろう。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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