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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年3月13日

第61回コープ住宅の「人的安心」と「建物的安心」

 「NPO都市住宅とまちづくり研究会」(としまち研)と「第一生命経済研究所」が、共同で作成したレポートを入手した。

 タイトルは「震災時のコーポラティブハウスのコミュニティ機能に関する調査研究」。東日本大震災の後に、としまち研がこれまで建設してきたコープ住宅のうち、10棟を対象にヒアリング調査を行ったレポートだ。

 コープ住宅では、複数のユーザーが集まって建設組合を設立。共同で土地を購入し、建物を建て、管理していく。共同で建設するため、コミュニティが育ちやすい特徴がある。

 調査した10棟とも所在地は東京。戸数20戸程度の小規模なコープ住宅が多い。

 【地震発生時の対応】

 (1) 地震発生時に在宅していたのは、専業主婦と高齢者が主だった。

 (2) 複数のコープ住宅で、在宅していた人が、階段を使って全戸を回り、各戸の呼び鈴を押して安否確認を行った。

 (3) 複数のコープ住宅で、住人専用のメーリングリストを活用して、安否情報を発信した。しかし、メールは通じないこともあった。

 【コープ住宅の特性が生きた点】

 (1) 震災時に、コープ住宅の特性が生きた点として、「人的安心」と「建物的安心」があげられた。

 (2) 人的安心とは、隣近所の顔と名前が一致しているため、互いに声をかけ合ったり、体験を話し合ったりすることで、恐怖心を緩和できたことを指す。

 (3) 建物的安心とは、建設プロセスを通じて、住民の建物に対する構造的な理解が進んでいたため、落ち着いて行動できたことを意味する。

 【コープ住宅の絆を高めるキーワード】

 (1) 非常時に、絆を高めるキーワードとなるのが、「店舗」と「コアパーソン」になる。

 (2) 常に人がいて、扉が開いている店舗があると、非常時のより所になる。

 (3) 店舗の運営者がコープ住宅の住人であり、かつ地域に詳しい旧地権者の場合には、安心感はより深まる。

 コープ住宅には大きく3つの特徴がある。第1に、共同で建設するためコミュニティが育ちやすい。第2に、家族の暮らしに合わせた自由な設計ができる。第3に、広告費や販売経費などの中間コストが不要なため一般の分譲マンションに比べて価格が安い。

 今回の大震災では、このうち「コミュニテイ」が大きく評価された形である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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