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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年7月24日

第290回口コミ掲示板『マンションコミュニティ』から「土地勘」を身に付ける

 私は新築分譲マンションを取材する場合、事前に口コミ掲示板サイトの『マンションコミュニティ』に目を通すことにしている。そのマンションに関心を持つユーザーが、何を考えているのかをざっと把握して、一種の「土地勘」を身に付けるのである。

 ただし『マンションコミュニティ』に掲載されている投稿はいわば玉石混交で、役に立つこともある一方、投稿者同士が泥仕合を繰り広げていて時間の無駄遣いに終わることもある。


 旭化成不動産レジデンスの新築分譲マンション、「アトラス四谷」の場合には、掲載された投稿は要点をうまく捉えているものが多くて興味深かった。

 「アトラス四谷」の前身は、1956年(昭和31年)に民間企業によるわが国初の分譲マンションとして誕生した、「四谷コーポラス」である。

 「四谷コーポラス」はJR「四ツ谷」駅から徒歩6分。外堀通りから少し入った住宅街に、地上5階建て、全28戸の分譲マンションとして完成した。

 住戸のうち24戸はメゾネットタイプで、入居者の要望を聞く「オーダーメード」方式で設計され、専有面積は76.89平方メートル(23.3坪)、価格は1戸233万円だった。

 当時は大卒の初任給が1万円程度。そういう時代に、今日でいう「コンシェルジュサービス」を提供した「四谷コーポラス」の購入者は、大学教授、弁護士、大手企業社長などの富裕層だったという。

(旧「四谷コーポラス」の外廊下)

 しかし築後50年が過ぎる頃から、建物やインフラの老朽化が目立つようになった。このため2015年に、管理組合が「建替推進委員会」を設立。2016年には「事業協力者選定コンペ」を実施して、旭化成不動産レジデンスに建替を依頼した。

 旧「四谷コーポラス」は地上5階、延べ床面積が2290平方メートルで、住戸数は28戸だった。

 それに対して、新「アトラス四谷」は地下1階・地上6階に変更。延べ床面積を3986平方メートルに広げたため、住戸数を51戸に増やすことができた。そのうち非分譲住戸23戸には従来の区分所有者が入居し、分譲住戸28戸には新たな購入者が入居する。

 ただし、住戸数を増やすためには、いろいろ遣り繰りしなければならなかった。 「アトラス四谷」の特徴を要約すると、以下のようになる。

 一 共用廊下は外廊下とする(庇付き、アルミルーバーで目隠し)

 二 分譲住戸の専有面積は約30〜約61平方メートル(1K〜2LDK)

 三 平均坪単価は460万円

(新「アトラス四谷」の完成予想パース)

 これに対して、『マンションコミュニティ』では、以下A〜Fの諸点が議論の的になっていた。「投稿者の意見」に対して、「私が取材した結果をもとに回答する」形式で構成してみた。


【A「旧来の地権者」と「新しい区分所有者」の関係】
 投稿者──「地権者が23戸、新入居者が28戸という割合なので、管理組合が地権者に支配されてしまうのではないかと心配です」

 私の回答──「旭化成不動産レジデンスの販売担当者は、『新入居者の中には、地権者の皆さんが管理組合をリードしてくれるのなら負担が楽になる、と喜んでいる人も少なくありません』と教えてくれました」

【B狭い専有面積】
 投稿者──「立地がいいのに、狭い住戸が主体なので残念です」

 私の回答──「敷地に制約があるためです。狭い住戸は単身者あるいはディンクス向けと割り切るべきでしょう」

【Cなぜ外廊下?】
 投稿者──「この立地と規模で外廊下はあり得ないと思います」

 私の回答──「旧『四谷コーポラス』も、写真で見るように外廊下でした。なお新『アトラス四谷』では、アルミルーバーを付けて部分的に目隠しをしているので、少しは進歩しています」

【D狭いので投資向き?】
 投稿者──「専有面積が狭いので投資向きかと。ただし利回りが悪すぎる・・・」

 私の回答──「販売担当者は、『新規購入者の目的は実需あるいはセカンドハウスです。投資目的の方はおられないと思います』と話していました」

【E立地と価格】
 投稿者──「立地がいいので、やはり坪500万はするのでしょうか?」

 

 私の回答──「販売担当者は、『第1期販売では平均坪単価は460万円』と話していました」

【F再開発計画の進行】
 投稿者──「四ツ谷駅前で大規模な再開発事業が進行していますね」 

 私の回答──「商業施設もあるので便利になります。また再開発が追い風になって、このマンションの資産価値が向上する可能性もあります」

(新「アトラス四谷」のラウンジ。旧建物で使われた本棚、扉、格子などが展示され、懐かしい雰囲気が伝わってくる)

〖アトラス四谷の概要〗
所在地─東京都新宿区四谷本塩町10-1(地番)
交通─JR中央・総武線「四ツ谷」駅徒歩6分
総戸数─51戸(分譲住戸28戸、非分譲住戸23戸)
敷地面積─約996平方メートル
建築延床面積─約3986平方メートル
構造・規模─鉄筋コンクリート造、地上6階・地下1階
地域・地区─第1種住居地域
自転車置場─60台
バイク置場─6台
管理会社─旭化成不動産コミュニティ
建物完成─2019年7月下旬予定
売主─旭化成不動産レジデンス
設計・監理─パルシップ
デザイン監修─E.A.S.T.建築都市計画事務所
施工─佐藤秀

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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