リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年1月25日

第14回 暴れる家具

 毎年、少なくとも2回、地震について深く考えることにしている。いうまでもなく、1月17日の阪神淡路大震災、および9月1日の関東大震災の当日である。まず、自宅の点検をし、次にジャーナリストとして、マンションデベロッパーや住宅メーカーがつくる住宅を点検する。

 東海地震の発生確率は87パーセントとされる。この地震により、中部圏の建物が大きな被害を受けるだけではなく、首都圏や近畿圏の建物も長周期地震動により何らかの被害を受けると予想されている。長周期地震動の特徴は、超高層マンションを、ゆっくり、大きく、長時間にわたって揺らし続けることだ。

 防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センターにある、大型振動台(通称、Eディフェンス)で行われた、震動実験の結果を動画で確認しておこう。

 1980年代の技術で建てた、鉄骨造、高さ80m(22階建て)の超高層ビルが、長周期地震動でどう揺れるかを実験でシミュレーションしたものだ。4階までが実物大で、それ以上をコンクリート製の重りと積層ゴムに置き換えて、モデル化している。

 入力した地震動は、想定される東海・東南海地震において、名古屋市三の丸地区で観測されるはずの仮想地震波で、震度5強に相当する。

【動画】
1980年代の超高層ビルの震動実験
http://www.bosai.go.jp/hyogo/img/dougafile/200909_case4-4.wmv
動画配信先は防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センターの加震実験映像ページ
http://www.bosai.go.jp/hyogo/movie.html

 動画を見ると、建物が長周期地震動に共振し、高層部の重りがはらみ出しているのがよく分かる。この振幅により、下層階の梁と柱の溶接部分に亀裂が発生していると推測される。

 次に、最上階に設置された、ダイニングキッチンの室内である。地震に備えて家具止めなどなどをした「対策あり」と、「対策なし」の2種類が、左右に並べて映し出される。

【動画】
1980年代の超高層ビルの震動実験
http://www.bosai.go.jp/hyogo/img/dougafile/200909_case4-room.wmv

 結果は一目瞭然である。「対策あり」の室内はほぼ無償で済んだのに、「対策なし」の室内はひどい状態になっている。

 テレビ──。震動直後からテレビ台が室内を走り回り、周りに衝突を繰り返した。しばらくしてテレビが落下。その後もテレビ台は部屋中を走り回った。

 ローボード──。設置物は全て滑り落ちて散乱した。ただし、ローボード自体に動きは見られなかった。

 食器棚──。震動後すぐに上段が転倒し、割れた食器類が散乱した。続いて下段も移動し、転倒した。

 冷蔵庫──。前後左右に走り回り、ドアが開閉し、内容物が散乱した。しばらくして、冷蔵庫も転倒した。

 ダイニングテーブル──。震動直後に、横にあった食器棚が倒れて、テーブルに衝突。テーブルは大きく移動した。テーブルはその後も移動を続けた。

 このように、「対策なし」では、家具は暴れ回る。よって、マンションの供給者として、室内の壁に家具を止める小物を付けやすいように配慮すると同時に、入居者にも注意を呼びかけなくてはならない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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