リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2021年8月10日

第381回 熱海市伊豆山地区で発生した「土砂災害の衝撃」

 2021年7月3日の午前10時半ごろ、静岡県熱海市の伊豆山地区で大規模な土砂災害が発生しました。当時は、東海地方から関東地方南部を中心に記録的な大雨が降っていて、伊豆山地区では48時間に321ミリもの降水量が記録されたそうです。

 テレビのニュース速報を見ていると、大量の土砂がすごい勢いで斜面を駆け下りてきて、道の両側に建つ住宅などを次々になぎ倒していく様子が映し出されました。これでは、住宅に住む人々にとっては、逃げる時間はなかったと思われます。 

【■■】「72時間経過、泥と格闘」──静岡・熱海土石流災害

 土砂災害から3日後の7月6日16時、中日新聞はウェブサイトに、「72時間経過、泥と格闘──静岡・熱海土石流災害」と題する記事を掲載しました。

 ──6日午前、救助で生存率が急激に下がるとされる「72時間」を迎える直前に、救助隊に「退避!」の声が響いた。上流で水の流れの変化を感知したためで、作業を一時間ほど中断。二次災害の恐れもある。

 水をたっぷり含んだ大量の土砂に阻まれながら、警察や消防、自衛隊などが時間との厳しい闘いを続けている──。

【■■】国土地理院がドローン(無人航空機)で被災状況を撮影

 国土地理院のウェブサイトには、「UAV調査隊(国土地理院ランドバード)による被災状況の撮影を実施」と題する情報が掲載されています。 

 「UAV」とは「Unmanned aerial vehicle」の略称です。日本語に翻訳すると「人が搭乗しない航空機」、すなわちドローン(無人航空機)ということになります。

 URL<https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R3_0701_heavyrain.html>

 このページには、熱海市における被災状況把握のため派遣した調査隊が、7月6日に上空からドローンで撮影した写真が掲載されているため、被災地の状況を詳しく観察することが可能です。

 URL <https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R3_0701_heavyrain.html#4>

【■■】7月22日時点の被害者

 また静岡県災害対策本部によれば 、7月22日時点では、死者19名、行方不明者8名、避難者は335名とされています。また建物が被害を受けた建物は、実に131棟に達しています。

 URL<http://www.pref.shizuoka.jp/kinkyu/r3_atami_dosyasaigai.html>

【■■】土石流の起点は「盛り土」?、それとも「盛り土」より下流側?

 ウェブサイト「あなたの静岡新聞」は、7月21日、次のような記事を掲載しました。

 ──熱海市伊豆山の大規模な土石流災害を巡り、県は今後、逢初(あいぞめ)川の土砂の成分分析を含めた科学的な原因究明と、業者が行政手続きを適正に行っていたのか両面で調査する方針だ。

 担当部署が多岐にわたるため、国土交通省出身で土木工事の技術面に詳しい難波喬司副知事を中心にチームを作り、熱海市の協力も得て実態解明を進める。

 発生原因に関しては土石流の起点が盛り土なのか、盛り土より下流側の崩落が盛り土の崩落を誘発したのか不明。成分分析によって、「下流側に流れ下った土砂」と「盛り土の土砂」の類似性を調べるという。

 難波副知事は9日の記者会見で、「盛り土より上流側に降った雨が浸透し、長雨の影響で大量に盛り土の地下にたまり、不適切な工法の影響もあって被害を拡大させた」との考えを明らかにした。

 このメカニズムによれば、既に盛り土下部は流出しているため、崩落しないで残った盛り土部分はあるが、「少しの雨では大崩落は起きない」と推定した。

 また、地質専門家の塩坂邦雄氏が主張する、「逢初川と別の流域から雨水が流れ込んで、盛り土上流側の集水面積が約6倍になった」とする可能性について、「6倍の水が流れるような状況ではない」と指摘。「不確定な情報で不安をあおっている」と批判した。

 行政手続きに関し、県は県土採取等規制条例を中心に、法令に沿った対応が取られていたのか調べる。盛り土周辺部の地形電子データや写真、映像などを時系列で比較するとともに、手続きの関係書類を精査する──。

 URL<https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/927322.html>

【■■】知らない間に増えた“不安定な土砂”

 日経BP社が運営する技術系デジタルメディア「日経xtech」は、7月20日、「盛り土行為は砂防課に共有されず、知らない間に増えた“不安定な土砂”」という記事を掲載しました。

 土石流の起点で崩落した土砂の総量は5万5500立方メートル。盛り土はその97%を占める。逢初川の最上流部にあった盛り土から400mほど下流側に「砂防ダム」を1基設置していたものの、大量の土砂を受け止めきれず、ダムを乗り越えていった。

 静岡県河川砂防局砂防課の西川茂課長代理は、「砂防ダムの建設当時は、川の上流で土石流が発生しても防げるように設計していたはずだ」と推測する。砂防ダムの規模は基本的に、上流側に存在する不安定な土砂を考慮して決めている。砂防ダムの完成後に造成された盛り土が、不安定な土砂として流れ出てしまった。

 盛り土行為を巡っては、これまで静岡県や熱海市が、再三再四にわたる指導をしてきたことが分かっている。

 盛り土を造成したのは、当時、神奈川県小田原市に拠点を構えていた不動産管理会社だ。2006年9月に土地を取得。県の土地採取等規制条例に基づいて、土の採取計画届出書を07年3月に熱海市へ提出した。

 しかしその後、同社が土地の面積を勝手に改変したことが判明。県は林地開発許可違反と判断して、土地改変行為の中止と森林復旧を文書で指導した。

 2008年8月に同社は是正を完了して、翌年に土砂の搬入を開始。その後も改変した面積の計算方法を市が指導するなどしたが、2010年に造成工事がおおむね完了してしまう。

 県は事故後、盛り土について適切な排水設備を設置していない可能性があると指摘。不適切な盛り土が崩落につながった一因とみている。

 URL<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01712/071900024/>

【■■】徐々に明らかになってきた「土石流のメカニズム」

 「日経xtech」は、翌7月21日に、「熱海の崩壊盛り土、流域を越えた地下浸透水の流入で飽和していたか」という記事を掲載しました。

 静岡県熱海市で起こった土石流のメカニズムが、徐々に明らかになってきた。逢初川の流域(分水嶺を境にして、降水が流入する全域)の上流部にあった盛り土全体が、流域外の地下浸透水の影響を大きく受け、水を大量に含んで下流まで流れ落ちたという推定メカニズムを県が公表した。

 県は盛り土の崩壊について、下流側が起点となって順に起こったと推測している。例えば、想定される現象の1つが「パイピング」だ。盛り土内の地下水位の上昇に伴って、下端部から水が噴出。下端部の土砂が流れ落ちた影響で上部の盛り土も連鎖的に崩落した可能性がある。

 崩落した盛り土は下流域の市街地まで流れ込んだ。県が災害後に実施した計測によると、土石流が通った上流域の河道内に盛り土はあまり残っていない。

 難波喬司・静岡県副知事は2021年7月15日の会見で、「盛り土の上部まで満水状態でなければ、上部の盛り土は流動化しないため河道内にたまっているはず」と説明している。つまり、崩壊した盛り土の地下水位はかなり高く、飽和していたことを意味する。

 URL<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01712/071900025/>

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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