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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年7月11日

第253回「東京ベイ トリプルタワー」、第1期販売戸数"9戸の謎"

 東京湾岸エリアのタワーマンションで、今年の目玉とされている物件が2つある。まず三井不動産レジデンシャル、近鉄不動産、JX不動産、新日鉄興和不動産、住友商事が売主となる、地上48階、全1076戸、平均坪単価約350万円の「パークタワー晴海」である。

 次に住友不動産が売主となる、地上32~33階、全1539戸、平均坪単価320万~330万円の「東京ベイ トリプルタワープロジェクト」である。

 このプロジェクトはマンション3棟、子育て支援施設、大型商業施設、ホテル、イベントホールなどから構成。都内最大規模という約10.7ヘクタールの敷地を持つ複合開発で、「国家戦略特区事業」に認定されている。

 東京湾岸エリアを望む(写真の奥が北)。中央が「東京ベイトリプルタワープロジェクト」(完成予想図)。遠くに東京タワーが見える。

 私が6月上旬に取材したときには、物件のウェブサイトには、次のように表示されていた。

 第1期販売──2017年6月下旬(予定) 

 販売戸数──9戸 

 販売価格──3400万円台~1億5000万円台(100万円単位)

 普通のデベロッパーなら、第1期の販売戸数は300戸程度とするかもしれない。ただし、住友不動産は建物竣工前の「青田売り」と、建物竣工後の「完成売り」を併用しているため、第1期の販売戸数が100戸程度に抑えられても不思議ではない。

 しかしウェブサイトに表示されているのはわずか9戸である。90戸ならあり得る数字なのだが、なぜ9戸なのだろう?

 この物件の取材当日、東京駅周辺で住友不動産の広報担当者2人と待ち合わせて、下打ち合わせを行った。そのとき私は真っ先に、「第1期販売戸数が9戸の理由を知っていますか?」と質問した。すると、「えっ、本当ですか。90戸の間違いではないのですか?」という返事が返ってきた。

 そこでウェブサイトを見てもらった。すると「確かに9戸ですね。うーんっ・・・」。

 こうなると、詳しい理由は同社の「総合マンションギャラリー東銀座館」(中央区築地6-19-20 ニチレイ東銀座ビル内)で待ちうける、物件の販売担当者に聞くしかない。

 私「第1期販売戸数はなぜ9戸なのですか?」

 販売担当者「それは"不動産の表示に関する公正競争規約"を守るためです」

 どういうことなのだろう・・・。実は同規約の施行規則は、次のように定めている。

 (1)新築マンションが分譲される場合、販売価格を100万円単位で数えたときに、一番数の多い価格帯を最多価格帯という。

 (2)販売戸数が10戸以上あるとき、全ての価格を示すことが難しい場合には、最低価格、最高価格、最多価格帯、最多価格帯の販売戸数を表示しなければならない。

 (3)販売戸数が10戸未満であるときは、最多価格帯の表示を省略することができる。

 販売担当者「6月上旬時点では、最低価格が3400万円台、最高価格が1億5000万円台の住戸を販売することは決めていました。しかし、それ以外の住戸については、まだ決めていないので最多価格帯は不明です。つまり、販売戸数を10戸以上と表示すると、公正競争規約に抵触する恐れがあるため、便宜的に9戸と表示しました」

 写真に見るように、「東京ベイ トリプルタワープロジェクト」のマンション棟の平面は、西棟(左側)は正方形、中央棟は長方形、東棟(右側)は正方形に分かれ、かつ西棟と東棟は45度回転させている。その結果、各棟から見える景色はずいぶん違ってくる。

 そして、「人によって好む方向が違ってくるため、西棟・中央棟・東棟の東西南北のどの側の住戸から販売すればいいのか、絞り込むのに時間がかかっている」──というのが真相だった。

 【「東京ベイ トリプルタワープロジェクト」概要】

 所在地─東京都江東区有明2丁目 

 交通─東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅から徒歩4分

   ゆりかもめ「有明」駅から徒歩3分

 総戸数─1539戸 

 完成年月─2019年7月予定 

 入居(引渡)予定日─2020年2月下旬~3月下旬  

 敷地面積─3万2627平方メートル 

 売主─住友不動産

 設計・施工─前田建設工業

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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