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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年11月10日

第192回傾斜マンションと「横浜に特有な支持地盤層の変化」

 「パークシティLaLa横浜」の西棟で杭8本が支持層に届いていなかった問題は、私が参加している建築関係者のネットワークですぐに話題になった。

 準大手ゼネコンの現場所長経験者Aはこう記した。「横浜に特有な支持地盤層の変化を、関係者が知らなかったのではないか」。

 大手ゼネコン設計部でマンション手がけた経験者Bは、「確かに横浜は難しい。Aさんが指摘する通りだ」と続いた。

 AもBもベテラン世代で、ともに横浜の物件を手がけた経験がある。「横浜に特有な支持地盤層の変化」とは、地面が平坦であっても、地下がなだらかに傾いているわけではなく、傾斜面に凹凸があることを指す。

 この凹凸を把握するためには、事前に古い地図を調べたり、現場周辺で行われた建築工事の関係者に話しを聞いて支持地盤層の特徴を大まかにつかんだ後に、ボーリング調査地点を決める必要がある。

 

 さて「LaLa横浜」の工事が行われた2005年~2006年当時とは違って、今では横浜市には「行政地図情報提供システム」という便利なウェブサイトがある。

 同ウェブサイトのURLは「http://wwwm.city.yokohama.lg.jp」。

 まずトップページに「液状化マップ」「土砂災害ハザードマップ」「昭和初期及び昭和30年代の詳細な地形図」などが掲載されている。このうち「昭和初期及び昭和30年代の詳細な地形図」を見ると、都市開発が行われる以前の地形を知る手がかりになる。

 次に「トップページ」→「地盤Viewトップ」→最下段「同意する」→住所「横浜市都筑区池辺町4035」とたどると、「パークシティLaLa横浜」周辺のボーリング調査資料を見ることができる。

 「LaLa横浜」の敷地内のデータは掲載されていないので、代わりに池辺町の「町」という字がある位置の○印をクリック。土質柱状図のPDFファイルを開くと、地下約9メートルまでN値がほぼゼロ、すなわち水田と同じようなズブズブの地帯であることが分かる。

 もう1個所、池辺町不動原公園の○印をクリックすると、こちらは地下約7メートルまでN値が5以下のズブズブ地帯である。「LaLa横浜」は両地点のほぼ中間なので地盤は軟弱だろうと推測できる。

 今度は「LaLa横浜」周辺の○印を次々にクリックする。日本建築学会は「支持層の目安は砂質土・礫質土ではN値が50~60以上、粘性土では20~30以上」としている。これを参考にすると、場所によって支持層は11メートル、12メートル、13メートル、15メートル、16メートル、支持層の位置不明と、まるでバラバラであることが分かる。

 「LaLa横浜」を工事する際に、事前にこういう情報が得られていれば、ボーリング調査の地点をもっと大幅に増やすことで対処できたのではないか、と惜しまれる。

 以下の文章はesriジャパンにある「積極的な情報提供・公開を宣言した自治体の挑戦」から引用した──。

 

 横浜市では「行政地図情報提供システム」の運用にあたり、月に1度、各提供情報の所管部局担当職員が集まり、システムの状況と改良点、今後新たに公開する地図データなどを協議するための定例会を開催している。この定例会で改良点を検討した結果として、平成18年6月にそれぞれのシステムで同じ場所で種類の異なる地図情報を閲覧できる地図切り替え機能など新たな機能を装備した。

 また、これまでデータベースサーバに一元化された多種多様のデータを更に有効に利用するために、各データを複合的に重ね合わせ高度利用するための職員向け機能を追加することについても検討中である──。

 私が理解している限りでは、横浜市「行政地図情報提供システム」は日本トップクラスの出来映えである。「横浜に特有な支持地盤層の変化」を知る手がかりとして、今後は積極的に活用してほしい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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