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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年8月29日

第257回定借マンションが1000戸台を回復、NTTグループが大きく貢献

 定期借地権付きマンション(略称、定借マンション)の年間供給戸数が、初めて1000戸を超えたのは、1995年度のことだった。この定借マンション全盛期は、2008年度まで続いた。

 けれども、「山高ければ、谷深し」。2009年度からは一気に停滞期に陥り、供給戸数が数百戸にとどまる時期が7年間も続いた。

 ただし、「どんなに暗くても、明けない夜はない」。定借マンションの2016年度(2016年4月~2017年3月)供給戸数は1193戸を記録して、久々に1000戸台を回復した。

 日本住宅総合センターのWEBリポート「2016年度定期借地権事例調査」には、以下の14物件で、合計1193戸が供給されたと記してある(なお、売主名は筆者が確認した。また、14物件の全戸数を合計すると1891戸になることも、筆者が確認した)。

 これを、全戸数が多い順に並べると、次のようになる。

 1位 全552戸、シエリアタワー千里中央(関電不動産開発)

 2位 全276戸、アルファグランデ千桜タワー(スターツデベロップメント)

 3位 全252戸、ブランズシティ世田谷中町(東急不動産)

 しかし、物件数が多い会社を見ると、NTT都市開発が5物件(全377戸)で1位になる事実に注目したい。表ではオレンジ色で示した。

 これに加えて、他の9社の物件うち、東急不動産が売主となるブランズシティ世田谷中町(全252戸)は、NTT社宅跡地に建設された"定期転借地権付きマンション"である事実にも注目したい。表では橙色で示した。

 その上で、NTT都市開発の5物件と、NTT社宅跡地の1物件を、「NTTがらみ」としてまとめてみよう。

 NTTがらみ6物件(全629戸)──表の「オレンジ色」+「橙色」の6物件。

 このように、「NTTがらみ」という枠でとらえると、6物件(全629戸)はシエリアタワー千里中央(全552戸)を超えて、一気にトップに躍り出るのである。

 なぜ、NTTがらみの定借マンションが、こんなに多いのだろうか。念のためにNTT都市開発が2010年5月にまとめた「中期経営計画2012」をチェックすると、「経営環境の変化(不動産ビジネスの質的変化の進行)に対応するために、定期借地権の利用を推進する」という1項目があった。よって、その反映なのであろう。

 話は変わるが、国土交通省・土地水資源局・土地政策課・土地市場企画室は、定借マンション全盛期の頃には、毎年「定期借地権供給実態調査」を実施。PDF形式で、3種類のデータを公開していた

 A 全国定期借地権付住宅の供給実態調査

 B 定期借地権付住宅の二次流通実績調査

 C 公的主体における定期借地権の活用実績調査

 このため、誰でも、定借マンションの動向を詳しく把握することが可能だった。しかし、定借マンションの停滞期になると、国交省は実態調査を中止した。

 それを補うために、都市農地活用支援センターと定期借地権推進協議会が「定期借地権付住宅の供給実態調査」を行っているが、残念なことにその結果はウェブサイトには公開されていない。

 これとは別に、日本住宅総合センターはWEBリポート「定期借地権事例調査」と題して、2008年度以前~2016年度までの調査結果を、図表を交えて公開している。

 ただし、これは国土交通省・土地市場企画室が公開していたA・B・Cという3本の調査結果のうちAに限定され、ある意味では最も重要な「B 定期借地権付住宅の二次流通実績調査」は実施されていない。

 このため、定借マンションを購入しようとするユーザー、あるいはすでに購入したユーザーにとっては最も重要な、「定借マンションに長く住んでいると、どうなっていくの?」「住んだ後に、途中で売却するとどうなるの?」といった疑問に答える資料が存在しなくなった。誠に残念である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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