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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年9月12日

第259回5月に廃刊になった専門紙『週刊住宅』を、新会社「週刊住宅タイムズ」が復刊

 「週刊住宅新聞社」が今年5月1日に倒産し、住宅・不動産専門紙の『週刊住宅』が廃刊(休刊)になったニュースは、本コラム第249回「倒産した週刊住宅新聞社から届いた1通の手紙」で触れた。

 今後はもう、『週刊住宅』を読むことはない・・・。そう思っていたら8月下旬に、新たに設立された「週刊住宅タイムズ」社から「意外なお知らせ」が届いた。その内容を、箇条書き形式にまとめる──。

 

 (1)『週刊住宅』購読者の皆さまへ、『週刊住宅』を復刊します。

 (2)このたび、株式会社「週刊住宅新聞社」で新聞業務に携わっていた社員有志と、新聞への寄稿や情報提供をしていただいた読者有志などの小口出資により、新たに株式会社「週刊住宅タイムズ」を設立し、『週刊住宅』を復刊いたします。

 (3)新「週刊住宅タイムズ」社では、「週刊住宅新聞社」の代理人弁護士との協議によって、同社から有償で『週刊住宅』の商標などの譲渡を受けました。

 (4)これまでの読者の皆さまは、 "新聞購読申込書"に必要事項をご記入のうえ、ファックスにてご送信ください。

 (5)申込書を送信された皆さまには、「週刊住宅新聞社」との契約によって前納していただいた購読料の残期間に応じ、新聞を送付いたします。残期間中は新たな費用はかかりません(注、残期間がXヵ月の場合には、それに4ヵ月加えた「X+4」ヵ月間だけ、追加料金なしで新聞が送付されます)。

 (6)従来よりも少ない面数(枚数)でスタートいたしますが、徐々に紙面を拡充する予定です。

 (7)社員一同、読者の皆さまの期待に応える紙面づくりに邁進する所存ですので、今後ともご愛読をお願いいたします──。

 【株式会社・週刊住宅タイムズ】

  業務内容 

   住宅・不動産専門紙『週刊住宅』の発行

   各種印刷物の企画・編集

   各種講習会・セミナーの企画・実施等

  資本金 

   5100万円

  連絡先

   住所 〒101─0061 東京都千代田区三崎町3─3─4巴ビル201

   電話 03─3234─2050

   FAX 03─3234─2070

 昨今はインターネットの普及や若手世代の活字離れを背景に、一般紙や専門紙の経営環境は極めてきびしいため、発行部数が年々落ち込むだけではなく、倒産する新聞社も少なくない。そういう中で、『週刊住宅』のように、約2億5000万円の負債を抱えて廃刊になったにもかかわらず、一転して復刊されることになったケースは極めて珍しい。

 なぜ、復刊が可能になったのだろう。「週刊住宅新聞社」が倒産した理由としては、『週刊住宅』の購読者数の減少に加えて、『うかるぞ宅建士』シリーズなど書籍事業の落ち込みが大きかったと伝えられる。

 新「週刊住宅タイムズ」社の設立者は、その書籍事業を切り離し、『週刊住宅』という新聞事業に絞れば、何とか事業を継続できると判断したと思われる。新聞人ならではの熱いスピリットをバネにして、復刊という難事業に乗り出した関係者には敬意を表したい。

 ただし、経営面への懸念を拭うことはできない。まず既存読者の扱いがある。

 新「週刊住宅タイムズ」社が発行する『週刊住宅』の購読者の中心は、当分の間、旧「週刊住宅新聞社」と契約し、「残りのXヵ月+4ヵ月」の期間は追加料金を支払う必要がない、既存読者が中心になると思われる。

 しかしながら、見方を変えると、これは新会社が早くも"負債"を抱え込んだようなものだ。資本金が5100万円の会社が、「残りのXヵ月+4ヵ月」の期間を、「購読料収入がないだけではなく、郵送料をも負担する」という厳しい状態で、本当にやっていけるのだろうか。

 また、従来よりも少ない面数(枚数)でスタートするため、情報量が不十分にならざるを得ない状態で、新しい購読者をきちんと獲得できるのだろうか。

 歴史を振り返ると、「廃刊(休刊)」になった新聞が、「復刊」された例は極めて少ない。最近の例としては『常陽新聞』がある。

 旧『常陽新聞』──1948年に『豆日刊土浦』として創刊。1953年(昭和28年)6月に、『常陽新聞』へと改名した。同紙の発行部数は1960年代半ばには1万部以上あった。しかし、2003年3月に営業不振に陥って、約7億円の累積赤字を抱えたため解散した。

 新『常陽新聞』──2013年11月、ソフトバンク出身者が、地域密着メディアへの経営参画を目指して、つくば市に新たに「常陽新聞株式会社」を設立。旧「常陽新聞社」が保有していた題号『常陽新聞』を買い取って復刊した。しかし、購読者数が伸び悩んで月数百万円の損失を計上せざるを得なかったため、2017年3月をもって廃刊になった。

 このように、同紙は復刊された後に再び苦い結末を迎えているのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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