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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2022年10月11日

第409回 「マンションみらい価値研究所」が「マンショントラブルの実態」を追求

 大和ハウスグループは、「マンションみらい価値研究所」と名付けた、とてもユニークな研究所を運営しています。 同研究所は2021年2月22日に、「これは必ず、読む人の関心を引き付けるに違いない」と感じさせるようなタイトルを付けた、「研究レポート」を公表しました。

[■■]研究レポートのタイトル

「緊急コールセンターの受信状況からみるマンショントラブル」

 URL<https://www.daiwalifenext.co.jp/miraikachiken/report/210222_report_01.pdf>

 私は「建築&住宅ジャーナリスト」という仕事をしています。それゆえに、「緊急コールセンター」「マンショントラブル」など、「刺激的なキーワード」を眼にしてしまうと、「即座に、これはキチンと読み込まなくてはならない」、というように反応してしまいます。

 ◆最初に、レポートの筆者を確認すると、末尾に次のように記されていました。

 「大和ライフネクスト株式会社・マンションみらい価値研究所・久保依子」

 これだけでは、情報が不足しているため、久保依子氏の経歴を調べてみました。すると、「時事ドットコムニュース」に略歴が掲載されていました。

 【「マンションみらい価値研究所」所長、久保依子(くぼよりこ)氏略歴】

 1989年に「株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)」に入社。

 1992年に「大和ライフネクスト株式会社」に転籍。

 2005年に「国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室」に参画。

 「分譲マンションの新たな管理ルールに関する検討会、第11回、第12回専門委員」を務めた。

 さらに、「国土交通省 土地・建設産業局不動産業課指導室マンション管理情報の適切な開示の促進等に関する勉強会」専門委員、2019年に「一般社団法人マンション管理業協会法制委員会委員」を務める。

 現在、「当社マンション事業本部事業推進部長」として、主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、精力的に報告書の執筆を続けている。

 著書:「マンション管理のトラブル解決Q&A」(共著)ぎょうせい(2018年)

 URL<https://www.jiji.com/jc/article?k=000000056.000059962&g=prt>

 これを要約しましょう。

 「リクルートコスモス(現コスモスイニシア)に入社。新築マンション販売、不動産仲介業務を経て、大和ライフネクストに転籍」。

 「大和ライフネクストでは、マンション事業本部事業推進部長として、主にコンプライアンス部門を統括する一方、マンション管理業協会法制委員会委員を務める」。

 ◆私(細野透)が理解するところでは、マンション管理士試験は、全体の合格率が「7~9%」という、「狭き門」とされています。

 久保依子氏は、「その狭き門」を突破した後、「リクルートコスモス」を経て、大和ライフネクストへ転籍。そして現在は、「マンション管理業協会法制委員会委員」。いかにも「強者 (つわもの) である」という感じが伝わってきます。

[■■]「研究レポート」の要約

 次に、研究レポート「緊急コールセンターの受信状況からみるマンショントラブル」の内容を、要約してみましょう・・・。

 災害時ばかりでなく、日常生活に関するトラブルや困りごとを受付けるために、当社ではコールセンターを設置している(名称「ライフネクスト24」)。

 東日本エリアを管轄するセンターを東京、西日本エリアを管轄するセンターを大阪に設置し、災害等でどちらか一方が機能しなくなった場合は、もう一方で全国をカバーする体制を取っている。

 受信時にオペレーターが必要であると判断すれば、警備会社や協力会社を手配する。また、問い合わせに回答し、警備会社や協力会社を手配することなく、その場で完了してしまうケースもある。

 今回は、ライフネクスト24の受信状況を分析し、マンションにおける日常生活のトラブルについて考察したい。

 (注❊以下に掲載したのは、細野透が要約した文章です)。

 ◆①受付件数の月別推移

 ライフネクスト24で、受信した案件のうち、2018年10月から2020年9月までの2年間における月別推移の傾向を見た。

 すると、「受信後にオペレーターが警備会社や協力会社を手配した案件(手配あり)」、「受信のみで終了した案件(手配なし)」ともに、概ね8月から9月頃に増加していた。その一方、1月から3月の冬季の件数は低かった。この「夏場が多い」傾向は、従来から見られた傾向である。

 その原因は、「夏休みで居住者が家にいる時間が長いため」と考えられてきた。

 そもそも、マンションの多くは都市部に建築されており、年末年始やゴールデンウイークの休暇は帰省や旅行などで不在となる住戸が多い。

 こうしたことから、受信件数は居住者の在宅時間と相関関係があるのではないかと考えられてきた。要するに在宅時間が長くなれば、普段は気が付かないようなところに目が行くようになり、「当社にお問い合わせをいただきやすくなるのではないか」、と考えていた。

 ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言が発出された2020年4月は、例年通り受付件数が減少している。報道でも「在宅勤務者が増加している」と言われ、マンションに勤務する管理員等からも「ゴミが増加している」との報告もあり、在宅者は明らかに増加していると考えられた。

 しかし、受付件数は例年通りの傾向であったことから、在宅時間との相関関係はないとも考えられる。当社の持つデータだけでは、受付件数の増減が何と相関関係があるのかは不明であった。

◆②受付件数の時間別推移

 ライフネクスト24で受信した案件について、「0時から23時までのどの時間帯に受信しているのか」を調査したデータがある(受診総数8万1587件)。

 0時台〜5時台「1000件以下」
 6時台〜「1160件」
 7時台〜「2023件」
 8時台〜「4047件」
 9時台〜「7480件」
 10時台〜11時台「6000件レベル」
 12時台〜「4424件」
 13時〜18時台「5000件レベル」
 19時〜21時台「4000件台〜2600件台」
 22時〜23時台「1800件台〜1300件台」

 日中は管理員がマンションに勤務し、当社の各支店の電話もつながることから、「ライフネクスト24」への連絡は、夜中や明け方の時間が多いのではないかと予想されるが、多くの方が就寝している時間帯は受付件数が少ない。

 反対に、「ライフネクスト24」という名称からも、24時間体制をとっていることは明白であるにもかかわらず、「午前9時台の受信」が7480件と突出して高くなっている。

 ライフネクスト24では、居住者からの受信ばかりでなく、管理員が「警備会社や協力会社の手配を要請」したり、設備点検等でマンションに派遣された「協力会社の点検員からの問い合わせ」もある。こうした管理員や協力会社からの受信が、勤務開始の9時前後に集中することもその要因である。

 しかし、居住者からのお問い合わせも、9時前後に多いことも確かである。推論ではあるが、日本人の感覚として「会社は9時に始まる」という意識も影響しており、12時台のみ件数が減少するのも「会社は12時に昼休みを取る」という意識の影響があるようにも考えられる。

 当社の状況を慮り、問い合わせの時間を意識していただいているのだとすれば、たいへんありがたい話である。

 ◆③共用部分 手配箇所

 ライフネクスト24で受信した案件の「トラブル発生箇所」のうち、共用部分に関わるものを発生箇所別に分類すると、次の順になっている。

 「機械式駐車場23%」
 「エレベーター13%」
 「給排水設備9%」

 こうした機械設備に関しては「動かない」というもののほか、さまざまな内容がある。例えば、「機械設備の点検頻度」は管理組合との契約により異なるが、多くとも月1回程度である。

 さらに、「異音がする」というご連絡により、次回の点検を待たずに異常が発見できる場合もある。

 また、他の居住者への影響を最小限に抑えることもできる。

 ◆④専有部分 手配箇所

 ライフネクスト24で受信した案件のトラブル発生箇所のうち、「専有部分に関わるもの」を発生箇所別に分類した。すると、次の順になっている。

 「キッチン15%」
 「トイレ15%」
 「浴室9%」
 「洗面所9%」
 「開錠・施錠依頼9%」
 「インターホン9%」

 当社では、開錠・施錠依頼については、管理組合または区分所有者、占有者と個別に「鍵預かりサービス」の契約を締結している場合にのみ、警備会社と提携して対応している。

 テレビドラマなどで管理員が部屋の鍵を持ち、来訪者に要望されるがまま開錠するシーンが放映されることがあるが、管理員が開錠することはない。

 開錠依頼では、まず「鍵を持たずに外出した」、「鍵を紛失した」、という『鍵の所有者自身が原因』である案件がある。それに加えて、「洗濯物を干すためにベランダに出た母親が、少し目を離した隙に、子がクレッセント錠を施錠してしまい、ベランダに閉め出された」ケースも、ほぼ毎月のように発生している。

 次に、キッチン、トイレ、洗面所、浴室など「水周り」のトラブルでは、「排水不良」、「止水不良」のほか、特に「漏水」は下階の住戸に影響を及ぼすケースもあり、トラブルが長期化、深刻化しやすい。

 受信した案件の内容に、「漏水」というキーワードを含むものを抽出したところ、発生箇所別の割合は、「キッチン19.9%」、「洗面所15.0%」、「メーターボックス13%」、「トイレ9.7%」、「浴室7.9%」、「洗濯機置場3.1%」という順になっている。

 このうち「メーターボックス」は、給水管、給湯管が集合しており、かつ、竪管と横管が結合されている場所でもあることがその要因であろう。

 ライフネクスト24は、緊急時のコールセンターという位置づけであり、当社では二次対応以降は各支店にその後の対応を引き継ぐことになっている。

 そのため、受信した漏水案件がその後、どのように解決されたのかは、今回のデータでは集計できていない。ただし、支店にて対応した漏水トラブルの事例では、実に「解決までに2年以上要したケース」もある。

 ◆⑤昔の「マンション三大問題」

 20年程前には、「マンションの三大問題」として、「ペット、騒音、漏水」が並び称されたことがある。

 「ペット」に関しては、ペットの飼育が可能な管理規約であるマンションが増加し、現在はペットに関するトラブル事例を聞くことはほとんどない。

 「騒音」に関しては、床材などの建築資材や施工方法の改良などにより、「上下階の騒音トラブル」は減った感がある。

 しかし、専有部分の「漏水」に関しては、配管の材質や施工方法の改良がされても、配管のリフォーム工事まで行われていない例もあることや、不注意による事故もあることから、漏水は今も昔も変わらない問題であるようだ。

 ◆⑥専有部分の「手配月別・推移」

 専有部分の受信件数の月別推移は、「受信件数が8月に多い」という、全体傾向と同様の傾向にある。

 推論として、次のような仮説を立てた。例えば、「4月は、新生活を始める居住者が多いので、鍵の施錠や設備の使用方法になれておらず、特定の項目に増加傾向が見られるのではないか」。また、「冬季は、給湯器の故障があると入浴できないため、給湯設備の緊急対応が増加するのではないか」。

 しかし、実際には、そうした傾向はほとんど見られなかった。つまり、専有部分のトラブルはいつでも発生し得るので、季節や時期の問題ではないようだ。

[■■] 住生活に関わる企業の「社会的使命」

 マンションみらい価値研究所が、2021年2月22日に公表した「 Report 23 」、すなわち『緊急コールセンターの受信状況からみるマンショントラブル』は、その末尾に位置する「終わりに」を、次のような文章で結んでいる。

 「データの集計にあたり、個別のライフネクスト24の受信内容を見ていると、居住者の日常生活や人生までもが垣間見えることがある」。

 「このデータの向こうにひとりひとりの生活がある。当社だけでも29万世帯、管理会社合計では500万世帯以上の暮らしを見守っている。住生活に関わる企業は、日常生活の安心と安全を守る社会的使命がある」。

 私はこの文章を読み終えた後、心の中で次のようなエールを送りました。
 「マンションみらい価値研究所、ガンバレ!!!」。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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