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2011年10月18日

第47回東京都が旗竿敷地での建築規制を強化?

 敷地(=旗)から道路まで細長い通路(=竿)が続く、いわゆる「旗竿敷地」に関して、東京都が規制を強化するという噂が流れ、関係者が緊張感を強めている。東京都の建築安全条例では、旗竿敷地における共同住宅の建設を原則として禁止しているが、住戸ごとに外部へ直接通じる出入口を備える長屋形式は、この共同住宅に該当しないので建設が可能になる。

 そのため、コーポラテイブ住宅のプロデュース会社、「オープンレジデンス」のブランド名でタウンハウスを展開しているオープンハウス、重層長屋「ザ・ロアハウス」を開発したコスモスイニシアなどが、旗竿敷地を利用して長屋形式による集合住宅の建設を進めてきた。

 最近、旗竿敷地が最も注目を浴びたのは、2009年12月17日の最高裁判所による、いわゆる「タヌキの森」判決である。

 【(仮称)目白御留山プロジェクト】

 事業主:新日本建設

 施工:新日本建設

 設計:都市デザインシステム

 所在地:東京都新宿区下落合4-9

 地域地区:第1種低層住居専用地域・第1種高度地区

 交通:西武新宿線「下落合」駅徒歩8分、山手線「目白」駅徒歩14分

 構造:鉄筋コンクリート造 地上3階地下1階

 規模:重層長屋住宅 29戸

 面積:70平米台~120平米台

 このマンションは、周囲が崖などに囲まれ、長さ約34メートル、最小幅約4メートルの通路だけで外部の道とつながっていた。東京都建築安全条例4条1項によると、この敷地の場合には通路の幅が8m以上必要と規定しているため、地域住民が建築確認の取消を求めて提訴し、最終的に最高裁で勝訴。この結果、マンションは本体工事を終えるなど7割方完成していた段階で、建築確認が取り消されるという異例の事態になった。

 さて、筆者の知人の話では、噂の発信源になったのは、東京都世田谷区の区議会議員、宍戸のりお氏のホームページだという。調べると、予算特別委員会で平成23年3月17日に行われた質疑のページに、次のような記述があった。

【路地状敷地(=旗竿敷地)における長屋の規制について】

 質問(宍戸議員)「平成22年の決算特別委員会で、路地状敷地に長屋形式の住宅建築されることに対する抜本的な解決方法を考えよとの質問に対し、区は検討すると答弁した。その後の検討状況を示せ」

 答弁(佐々木建築調整課長)「路地状敷地に建築される長屋につきましては、昨年、その規模の大きさ等から近隣住民との紛争が何件か生じており、この間、建築基準法に係る審査請求が2物件出されております。

 そこで区としましては、都市整備領域関係所管で構成する「情報連絡会」を昨年12月に立ち上げ、情報の共有化を図り、現状の把握、問題点を洗い出し、それに対する方策の検討に入っております。

 区としましては、路地状敷地においては、共同住宅が規制されている中で、長屋形式の建築物についてもその規模等について一定の規制が必要ではないかと考えております」

【東京都に規制の強化を働きかけた経過について】

 質問(宍戸議員)「路地状敷地に長屋が建築されるのを規制できないのは、都の建築安全条例に問題があるのではないかとの指摘に対し、区は都に規制の強化を働きかけると答弁した。その後の状況を示せ。さらに、路地状敷地での長屋の建築規制にしっかりと取り組め」

 答弁(佐々木建築調整課長)「先の審査請求の審議においても、東京都建築安全条例にあっては、違法性がないとの裁決がなされており、現行の規制では対応できない状態になっております。

 区としましては、本年2月、東京都の条例所管課に対し、問題になっている現状を説明し、条例の改正等を強く要望してきたところでございます。その際、東京都としては、本件に関しては既に検討項目としてあげており、具体的な検討については段階的に進めていく予定と聞いております。今後も東京都の動きを注視し、早期に条例改正がなされるよう要望してまいります」

 このように、世田谷区の佐々木建築調整課長は、「東京都が具体的に検討する予定」と答えている。その成り行きによって、旗竿敷地の利用が大きな影響を受ける可能性がある。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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